腐った妄想の吐きだし口。
現在は聖闘士星矢の蠍座のミロのハマっております。
2016/08/08 (Mon)00:33
…ノン、カノン。
名前を呼ばれた気がして、重たい瞼を抉じ開けた。ぼやけた視界に金の巻き毛が映る。
ミロも、こんな髪をしていたな。あいつはいまどうしているのだろう…。
「カノン、しっかりしろ。戻って来い」
頬をペシペシと叩かれ、悪夢につかまっていた頭が一気に覚醒した。
サガによって、スニオン岬に幽閉された後、俺は奇跡的に海界へと逃れ、海神ポセイドンを欺いて世界征服を企んだ。アテナと聖闘士たちに野望を打ち砕かれた後は、贖罪の道を探し一度は裏切った女神の元へとたどり着いた。聖戦の最中、ミロと再会も果たした。立派な戦士へと成長したミロは、赦しのスカーレットニードルを俺に打ち込み、聖闘士として、そして一人の男として認めてくれたのだ。
「み、ろ…。ミロか」
蒼い大きな瞳が、心配そうにこちらを見下ろしている。最近出来た年下の恋人は、少々過保護なところがある。
「大丈夫か、カノン。酷くうなされていたぞ」
ミロは水の入ったグラスを、手渡してくれた。一気に水を飲みほし、大きく伸びをした。部屋の中が薄暗い。双児宮の自室で、ミロが仕事を終えるのを待っているうちに、いつのまにやらうたた寝をしてしまったようだ。
「少々、夢見が悪かった」
「そのようだな」
ミロは隣に腰かけると、俺の頬に自分の頭を押し付けた。
「知っているか。悲しい時や落ち込んでいるときは、小さくて柔らかいものを抱くといいらしいぞ」
「お前のどこが柔らかくて小さいのだ」
「髪質だけは、癒し系だと自負している。カミュやシャカで実証済みだ」
フフフ、と子供のように無邪気に笑うとミロは撫でろと言わんばかりに俺の手を自分の髪へと持っていく。モフモフとした髪は触り心地がよく、シャンプーの清潔な香りが鼻孔をくすぐる。夢の中とは違い、すっかり逞しくなった体をぎゅっと抱きしめる。ミロが傍にいてくれるのが純粋に嬉しい。
「とても恐ろしい夢を見たのだ。お前に忘れ去られてしまう夢だ」
夢と言うよりは過去なのだが、幻朧魔皇拳で記憶を消されているミロはそのことを知らない。だが、それでもいいのだと、最近になって漸く思えるようになってきた。あのかけがえのない日々は俺がが一つ残らず覚えているから問題ない。それよりも、ミロがもう一度自分に恋してくれたことが嬉しい。
「カノン、もしもな。俺が記憶喪失になったとしてだ」
「ん?」
「おまえのことをきれいさっぱり忘れてしまったとしても、俺はもう一度カノンに恋をすると思う」
突然の告白に胸が詰まる。ミロは驚いた顔をしている俺の髪をあやす様に撫でつけると、さも当たり前だというように口の端を吊り上げた。
「俺の魂が変わらぬ限り、求める物は同じに決まっているだろう」
頬を温かい涙が流れた。その言葉が真実であることを、俺だけが知っている。
「結婚しよう」
ごくごく自然に、その言葉は口から飛び出してきた。ミロは驚いて目を見開くと息を飲んだ。
「お前さえ良ければ、明日にでも女神と教皇に報告に行こう。双児宮はサガに任せて、俺はミロの元に嫁に行く」
「カノンが嫁なのか?」
「なんだ、その返事は。折角のプロポーズが台無しだ」
おどけて肩を竦めると、ミロは「すまん」と謝罪した。
「嫁に来ると聞いて、俺はサガに殴られるのかと、そっちに意識がいってしまったのだ」
「やめてくれ、気持ち悪い。あの常識とやらに憑りつかれた愚兄のことだ、あまりの嬉しさに失神するかもしれんぞ」
結婚の挨拶をしている最中に、サガの顔色が赤くなったり青くなったりする様を思い浮かべ、二人で額を合わせて笑い合った。
「あぁ、いっそのこと聖闘士も海将軍も寿退社して、専業主婦にでもなってしまおうか」
「ほう、新妻らしく白いフリルのエプロンでもするか?」
ニヤニヤとミロが囃し立てる。俺はミロのふわふわした前髪を掻き上げると、額にキスをした。
「そうだ。お前が望むなら裸エプロンでもいい。新婚のお約束、『飯にするか?風呂にするか?、もちろん俺だろ!』もしてやるぞ。ベッドの中で蕩けるまで愛してやる」
「要らんよ。大男の裸エプロンなど、恐ろしいにも程がある」
「言ったな。では、俺が世界一裸エプロンの似合う男だということを証明しよう」
もう一度ミロの額にキスをした。両頬、鼻の頭、顎、そして赤く色づいた唇に。愛しい者の体温を感じられる幸せを感じながら。
END
長いこと放置でしたが、女装カノンとチビミロさんのお話、これにて完結です。応援して下さった皆様、ありがとうございました。
八月いっぱい公開したのち、加筆修正して11月のパラ銀に出す予定なので取り下げます。
10話と11話の間がかなり空いているので明日にでも纏めて支部にUPするつもりでいます。読み辛いと思った方はそちらをお待ちください。では。
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2016/08/07 (Sun)23:48
東の空が薄らと明るくなり始めた頃、トントンと部屋のドアを叩く音が響いた。ドア越しでもはっきりとわかる気配に、俺は舌打ちをし仮面をつけた。それとほぼ同時に扉が開き、サガが再び顔を出した。
「お別れは済んだかい?」
「うん。ありがとう、さが」
ミロは仮面越しに俺の顔を見つめると、こくりと頷いた。
柔らかなミロの感触が遠ざかる。名残り惜しさにミロの服を掴もうとしたが、それよりも一瞬早く、ミロはサガの元へと駆け出した。一度も振り返ることなく、ドアをくぐるとこちらに背を向けたまま
「いってきます」
と元気に声を張り上げた。
振り向いたら、泣いてしまいそうなのだろう。少し声が上ずっていたが、それは聞かなかったことにする。
「ではな、カノン」
サガがそっとドアを閉める。その瞬間、細くなった隙間から、不気味に目を細めたサガがミロを見詰めていたのを、俺は見逃さなかった。
怖気が背筋に走った。
このまま二人を帰してはいけないと直感が告げる。
急いでベッドから飛び降りるとドアを蹴り上げ家の外へと飛び出した。だが、既に二人の姿は見当たらない。
こんな短時間で、二人の姿を見失うなどあるはずがない。
サガはミロに何か危害を加えるつもりだ。恐らく教皇の指示で。
暗闇に意識を集中させると、サガの小宇宙を探った。どんなに上手く気配を消そうとも双子だから分かる。
頼む、間に合ってくれ。
微かな小宇宙をたよりに、祈るような気持で駆け出した。
僅かな小宇宙を辿って、たどり着いたのは俺たちがいつも逢瀬に使っていたあの泉の場所だった。
生い茂る木々がこんなに邪魔だと思ったことはない。不安に押しつぶされそうになりながら、茂みを抜けると視界に飛び込んで来たのはサガに追い詰められたミロの姿だ。
サガの右手がミロに狙いを定める。
間に合え、間に合ってくれ、頼む!
もつれそうになる足を動かして、精一杯手を伸ばして二人を止めたくて。必死に声を張り上げて叫んだ。
「幻狼魔「止めろ、止めてくれ!」
サガは瞳を閉じると、そのままミロへと技を繰り出した。まばゆい閃光がミロの額を撃ち抜く。
「ミロォォォ」
ミロの体がゆっくりと崩れ落ちる。地面に叩きつけられる寸前に、サガの手がそれを阻んだ。
「ミロに触るなぁぁ」
力任せにサガを突き飛ばし、ミロを引き離すと、丁寧に木陰にその体を横たえた。よほど怖かったのだろう。気を失ってもミロの顔は青ざめたままだ。
後でサガが何か言い訳の言葉を吐いていた。けれどそんなの聞こえない。耳の奥がバクバクと五月蠅い。目の前が赤一色に染まる。
サガが言い終える前に、俺はサガの顔を力任せにぶん殴った。サガの体が宙を舞い、顔から地面へと叩きつけられた。ヤツが起き上がる前に馬乗りになると、激しく顔を殴りつけた。サガの唇が切れ、血反吐が舞った。だがサガは、一つも抵抗することなく、殴られるがままになっていた。
「戻せ!戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻してくれ…」
初めて出来た、心を許せる仲間だったんだ。
両目から流れる涙が、てんてんと、サガの顔に雨を降らせる。
「俺からミロを取り上げないでくれ。頼むよ兄さん」
「私だって辛い。だが教皇のご支持は絶対だ」
「…分かった。なら、一つ俺の頼みを聞いてくれよ兄さん」
「カノン…。分かった、どんな望みもこのサガが応えて見せよう」
「教皇を殺し、聖域に破滅に導いてくれ」
サガは弟の口から出てきた言葉に恐れおののき、目を見開くと、俺を突き飛ばした。受け身を取るのさえも面倒で、固い地面に叩きつけられた。サガは俺の上にまたがり顔を殴りつける。
「この馬鹿めが!なんと恐れ多いことを抜かすか!」
何度も何度もサガは拳を俺の顔へと叩きこむ。口の中が切れ、口の端から血が滴った。
もうどうでもいい。
何もかもがめんどくさい。けれど、これだけはしなくては。
サガの心の中に悪の種を植え付け、聖域にほころびを作る足掛かりにする。それが俺の復讐。
「サガよ!俺と貴様は双子の兄弟。俺が聖域を憎む様に、貴様も聖域に牙をむく日が来るぞ」
「戯言をぬかすな!」
「どう思うかはお前の自由だ。だが俺には分かる、貴様は聖域に弓を引く!」
「五月蠅い!」
鳩尾への一撃で、俺は意識を手放した。
次に目が覚めた時は岬の牢獄へと幽閉されていた。
2016/04/09 (Sat)23:36
このところブログサボりまくりでした。本当、ネタは浮かぶんだけど文章にする気力がなくて(=_=)
ミロとカミュの出会い妄想。この二人の出会いは何通り妄想しても飽きないです。
孤児院から聖域と呼ばれる場所に引っ張ってこられて5日目。早くもミロは、この場所に嫌気がさして、脱走を試みた。
日の出よりも早く起きるのは、孤児院の生活で慣れている。部屋の中を漁り、下着を2枚と薄手のシャツ、その上にセーターを着こんでコートを羽織る。手袋とマフラーも忘れずに。逃亡生活に備えて昨日夕食の際に盗み出した三つのパンと一切れのハムをハンカチに包んでコートのポケットにしまった。
孤児院からミロが持ってきたのは、最低限の下着と毛玉だらけの着古したセーターだけだった。それだって優遇された方だ。孤児たちに自分の持ち物はなく、全てが院のものだから。だから孤児のミロに、必需品として衣服を、特に上質なコートを買い与えてくれた聖域の人々はきっと悪い人ではないのだろう。何が嫌だったのかと聞かれると、はっきりとはわからない。だた何かを決めつけられるような、大人たちの視線や気配に子供ながらも異様なものを感じ取ったのだ。
『ゴメンね』と呟き、ミロはそっと窓から外へと飛び出した。
窓の外には薄暗い森が広がっている。よく分からないけれど、ここを抜ければ街に出れる気がした。
夢中で走った。途中、何度も木の根っこにつまずいて転んだ。元々継だらけのズボンは簡単に破れて、膝に血が滲んだ。ミロの瞳に涙が浮かぶ。だが、ここから逃げるためには泣いている暇はない。泥だらけの手で、瞼を擦ると土のせいで余計に目が痛くなった。けれども必死で涙を止めるとミロはまた駆け出した。道なんてないけれど、兎に角自分が信じる方角へと必死で足を動かした。
息も上がり、足が痛くて歩くのがやっとになった頃、大きな泉へとたどり着いた。
食料は用意していても飲み物は用意していなかったミロは、犬のように泉に顔を付けると無我夢中で水を飲んだ。十分にのどを潤し、ほっと一息ついて辺りを見回すと木の影からこちらを見ている自分と同じくらいの子供と目が合った。
ありえない。
それが真っ先に頭に浮かんだ言葉だった。
この真冬に、薄手のシャツに半ズボン。まるっきり春の装いだ。辛うじて首に巻かれたマフラーが冬の名残りに見えた。
ミロは体を起こすと、一目散に子供に駆け寄った。
「きみ、どうしたの!そんなかっこじゃかぜをひくよ」
ミロは驚いて尋ねたが、目の前の子供は不思議そうに首を傾げるだけだ。言葉が通じないのか、それとも耳が聞こえないのか?
ミロはじれったくなって、着ていたコートを脱いで子供の肩にかけてやった。子供は吃驚してコートを脱ぐと、ミロに向かって何かを言っていたが、聞いたこともない言葉だった。どうやら、外国から来たらしい。
「いいから、きてて。すてごのおれでも、こんなかっこうでそとにだされたことないのに…。きみ、ひどいくらしをしてたんだね」
よく見るとこどものかおは青白く、手足も自分より細くて体つきもこじんまりしている。ミロはその子が不憫で堪らなくなって、コートのポケットに手をつっこむとパンを貴重な食料を渡した。それから無理やりもう一度コートを着させた。
子供はますます困った顔をしたが、今度は無理に返そうとはしなかった。だぼついたコートを羽織り、手にしたパンの匂いを嗅いだ。
『あの、ありがとう…。これ、たべられる、んだよね?』
孤児院育ちのミロは知らなかったが、子供の着ている服はフランスでは有名なブランド物だった。子供の髪から香る匂いは上質なシャンプーのものだし、顔色も青白く見える割に肌艶は良い。つまり、この子はミロのように貧しい孤児などではなく、良家の坊ちゃんだった。
ミロから押し付けられたパンを不審な目で見る子供。だが、ミロの目には子供がエサを前に飢えた仔犬のように映っていた。
「おなかいいぱいたべていいんだよ」
子供はミロとパンを交互に見ると、仕方なさそうにそれを一口齧って見せた。一日たって固くなったパンをもそもそと咀嚼し、ごくりと飲み込む。今まで食べた中で一番まずいパンだった。それなのに、ミロがあまりにキラキラした目で見つめてくるので、子供はどうしたらいいのか分からず、眉をハノ字にして首を傾げた。
その時だった。
『カミュ、こんなところにいたのかい?』
遠くの方から、耳慣れない言葉が聞こえた。その声は聞き覚えがある声だった。
ミロの野性的な勘が、”危険だ”と告げていた。ミロは慌ててくるりと踵を返すと、逃げ出そうと地面を蹴った…つもりだった。
『ところでミロ、どうして君がここにいるのかな?』
体が宙に浮く。ぎこちなく振り返ると、ニコニコと笑ってそこに立っていたのはアイオロス。ミロがこの聖域にやってきて初めて出会った”聖闘士”である。
こうしてミロの脱走騒動は幕を閉じた。聖域へと連れ戻されたミロはこってりと絞られ、大粒の涙を流して反省文を書かされた。
END
実はこの話、2月に書きはじめたんだけど長いこと放置で季節がずれちゃった(;^ω^)
ミロとカミュの出会い妄想。この二人の出会いは何通り妄想しても飽きないです。
孤児院から聖域と呼ばれる場所に引っ張ってこられて5日目。早くもミロは、この場所に嫌気がさして、脱走を試みた。
日の出よりも早く起きるのは、孤児院の生活で慣れている。部屋の中を漁り、下着を2枚と薄手のシャツ、その上にセーターを着こんでコートを羽織る。手袋とマフラーも忘れずに。逃亡生活に備えて昨日夕食の際に盗み出した三つのパンと一切れのハムをハンカチに包んでコートのポケットにしまった。
孤児院からミロが持ってきたのは、最低限の下着と毛玉だらけの着古したセーターだけだった。それだって優遇された方だ。孤児たちに自分の持ち物はなく、全てが院のものだから。だから孤児のミロに、必需品として衣服を、特に上質なコートを買い与えてくれた聖域の人々はきっと悪い人ではないのだろう。何が嫌だったのかと聞かれると、はっきりとはわからない。だた何かを決めつけられるような、大人たちの視線や気配に子供ながらも異様なものを感じ取ったのだ。
『ゴメンね』と呟き、ミロはそっと窓から外へと飛び出した。
窓の外には薄暗い森が広がっている。よく分からないけれど、ここを抜ければ街に出れる気がした。
夢中で走った。途中、何度も木の根っこにつまずいて転んだ。元々継だらけのズボンは簡単に破れて、膝に血が滲んだ。ミロの瞳に涙が浮かぶ。だが、ここから逃げるためには泣いている暇はない。泥だらけの手で、瞼を擦ると土のせいで余計に目が痛くなった。けれども必死で涙を止めるとミロはまた駆け出した。道なんてないけれど、兎に角自分が信じる方角へと必死で足を動かした。
息も上がり、足が痛くて歩くのがやっとになった頃、大きな泉へとたどり着いた。
食料は用意していても飲み物は用意していなかったミロは、犬のように泉に顔を付けると無我夢中で水を飲んだ。十分にのどを潤し、ほっと一息ついて辺りを見回すと木の影からこちらを見ている自分と同じくらいの子供と目が合った。
ありえない。
それが真っ先に頭に浮かんだ言葉だった。
この真冬に、薄手のシャツに半ズボン。まるっきり春の装いだ。辛うじて首に巻かれたマフラーが冬の名残りに見えた。
ミロは体を起こすと、一目散に子供に駆け寄った。
「きみ、どうしたの!そんなかっこじゃかぜをひくよ」
ミロは驚いて尋ねたが、目の前の子供は不思議そうに首を傾げるだけだ。言葉が通じないのか、それとも耳が聞こえないのか?
ミロはじれったくなって、着ていたコートを脱いで子供の肩にかけてやった。子供は吃驚してコートを脱ぐと、ミロに向かって何かを言っていたが、聞いたこともない言葉だった。どうやら、外国から来たらしい。
「いいから、きてて。すてごのおれでも、こんなかっこうでそとにだされたことないのに…。きみ、ひどいくらしをしてたんだね」
よく見るとこどものかおは青白く、手足も自分より細くて体つきもこじんまりしている。ミロはその子が不憫で堪らなくなって、コートのポケットに手をつっこむとパンを貴重な食料を渡した。それから無理やりもう一度コートを着させた。
子供はますます困った顔をしたが、今度は無理に返そうとはしなかった。だぼついたコートを羽織り、手にしたパンの匂いを嗅いだ。
『あの、ありがとう…。これ、たべられる、んだよね?』
孤児院育ちのミロは知らなかったが、子供の着ている服はフランスでは有名なブランド物だった。子供の髪から香る匂いは上質なシャンプーのものだし、顔色も青白く見える割に肌艶は良い。つまり、この子はミロのように貧しい孤児などではなく、良家の坊ちゃんだった。
ミロから押し付けられたパンを不審な目で見る子供。だが、ミロの目には子供がエサを前に飢えた仔犬のように映っていた。
「おなかいいぱいたべていいんだよ」
子供はミロとパンを交互に見ると、仕方なさそうにそれを一口齧って見せた。一日たって固くなったパンをもそもそと咀嚼し、ごくりと飲み込む。今まで食べた中で一番まずいパンだった。それなのに、ミロがあまりにキラキラした目で見つめてくるので、子供はどうしたらいいのか分からず、眉をハノ字にして首を傾げた。
その時だった。
『カミュ、こんなところにいたのかい?』
遠くの方から、耳慣れない言葉が聞こえた。その声は聞き覚えがある声だった。
ミロの野性的な勘が、”危険だ”と告げていた。ミロは慌ててくるりと踵を返すと、逃げ出そうと地面を蹴った…つもりだった。
『ところでミロ、どうして君がここにいるのかな?』
体が宙に浮く。ぎこちなく振り返ると、ニコニコと笑ってそこに立っていたのはアイオロス。ミロがこの聖域にやってきて初めて出会った”聖闘士”である。
こうしてミロの脱走騒動は幕を閉じた。聖域へと連れ戻されたミロはこってりと絞られ、大粒の涙を流して反省文を書かされた。
END
実はこの話、2月に書きはじめたんだけど長いこと放置で季節がずれちゃった(;^ω^)
2016/02/08 (Mon)10:22
happyBIRTHDAYカミュ(≧▽≦)と言うことで、ブログでお世話になっている尾羽っSUN様からのリクエスト。”誕生日に無茶なお願いをミロにとりつけるカミュ”でした。無茶ってほどじゃないですけど。出来上がる前の二人です。カミュは自覚済み。ミロは、よく分かんないけど、カミュにされることなら何でも受け入れちゃう感じ。
二月のギリシャは冬真っただ中だ。だが、鍛錬に明け暮れる聖闘士たちに季節は関係ない。外で体を動かせば、冬でも汗をかくことは多々ある。
2月7日の夕方。俺は、下級兵士たちの訓練を終え友の待つ宮へと足を運んだ。本日、めでたく一つ年を重ねたカミュに「何か欲しい物はあるかと」訊ねたところ、不思議なリクエストがやってきた。
首を傾げつつ了承すると、ヤツはほんの少し唇の端を吊り上げて笑った。あまり表情が動くことのないカミュの、上機嫌な顔だ。
そんな顔をされてしまっては、叶えぬわけにはいかないではないか。
ということで、自宮に荷物を取りに戻るとその足で瓶宝宮を目指した。甘いものがあまり好きではないカミュの為に作ってもらった甘さ控えめのブランデーケーキととっておきのワインを片手に。
「遅かったな」
俺が宮のプライベートスペースへと足を踏み入れると、ソファーに座っていたカミュが声を掛けた。視線は手元の文庫本に向いたままだが、雰囲気から浮足立っているのが分かる。
「そうでもないだろう。定時で切り上げてきたんだ。遅く感じたならば、それはキミがそわそわしているからだ」
からかい交じりで指摘すると、カミュはばつが悪そうに眉根を寄せ小さく咳払いをした。
「happyBIRTHDAY、カミュ。今年も、元気なキミを見られてうれしいよ」
「私の誕生日を祝うつもりならば、そんな所に突っ立っていないで、こちらへ来い」
照れ隠しなのかいつもより不愛想なカミュが示したのは、彼の膝の上。当たり前のようにぽんぽんと膝を打ち、こちらをじっと見つめている。
「は?」
意味が分からない。カミュに欲しいものを聞いたときから頭の中は疑問符でいっぱいだが、今度のことで益々意味が分からなくなった。
「俺、訓練が終わってから風呂に入ってないから。汚いぞ」
カミュからの返事はなく、期待を含んだ瞳でこちらを見つめている。これでは、拒否するわけにはいかず。テーブルの上にケーキとワインを置く。恐る恐る、カミュの膝の上に腰かけた。
がっちりと、腰に回されるカミュの腕。背中にカミュのぐりぐりと額が押し付けられる。
「ちょ、カミュ。俺本当に汗臭いし、埃っぽ「いいから、黙れ」」
カミュの指先が汗ばんで重くなった髪に触れる。優しく梳くように撫でつけ、それからジットリとした地肌をマッサージするように髪を掻き上げたた。スーハ―と後ろでカミュが深呼吸する音が響く。
「汗臭い」
「だろうな。キミの望み通り今日は沢山汗をかいたからな」
カミュからのリクエストは『沢山汗をかいて、そのまま会いに来てほしい。夜は一緒に過ごしたい』だった。夜は一緒に過ごしたいはわかるとして、汗をかいてこいとは一体どういうことだ?カミュの膝の上に抱きかかえられている今でも、彼の意図がよく分からない。ぼんやりと考え事をしていると、項をぬるりとした感触が撫で上げた。ゾクリとしたものが背中を這い上がってくる。不意打ちに身をすくませると、背後でクツクツと喉を鳴らすような笑い声が聞こえた。
「な、何するんだ!」
「驚きすぎだぞ、ミロ。私はただ、お前の首筋を舐めただけだ。あまりにいい匂いがしたのでな」
「は?汗臭いと言ったのはどの口だ」
「この汗の匂いこそが極上なのだ。どんな香水でも、この香りにはかなわぬ」
蕩けるような甘ったるい声で、カミュが囁く。振り返ってみると、見たこともないほどうっとりとした顔で、俺の髪に口づけていた。
何がそんなにうれしいのやら?
頭のいいやつの考えることは分からんと、首を傾げる。少し居心地が悪い気がして、尻をもぞもぞと動かすと、ぴたりと密着している腰のあたりに、何か固い物が押しあたっている気がするのは…気のせいに違いない。
「カミュ。俺はそろそろ風呂に入りたいのだが。汗が張り付いて気持ち悪い」
「ん?そうだな。もう少しこの香りを堪能していたい気もするが…ミロは鍛錬で腹が空いているだろう。さっさと風呂に入って、夕飯にしよう。お前が風呂から出てくるころにはキッシュもちょうどよく焼きあがっているだろうから」
「ありがとう。カミュの誕生日なのに、メシの支度をさせてしまってなんだか悪いな」
「気にすることはない、私がしたくてすることだ。それでな、風呂に入ったらこれで体を隅々まで洗ってくれ」
「は、い?」
今一つ状況が呑み込めない俺に、カミュは淡いピンクのボトルを握らせた。
「ミロの体臭と混ざり合って、とてもよい香りになると思うのだ。もちろん、汗の匂いにはかなわぬがな」
滅多に見られない極上の微笑みで頼まれてしまっては、断る事なんてできない。俺はこくりと頷くと、ボトルを手に風呂へと向かった。
END
私にエロの文才があったならば、何ラウンドか終えた後のピロートークでミロの汗のにおいに興奮するカミュを書きたい。が、そんな技量はないので出来上がったのがこの話。
ご飯の後はミロを膝の上に抱えてスーハ―タイムして、もしかしたら美味しくいただいちゃうかもしれませんね。
二月のギリシャは冬真っただ中だ。だが、鍛錬に明け暮れる聖闘士たちに季節は関係ない。外で体を動かせば、冬でも汗をかくことは多々ある。
2月7日の夕方。俺は、下級兵士たちの訓練を終え友の待つ宮へと足を運んだ。本日、めでたく一つ年を重ねたカミュに「何か欲しい物はあるかと」訊ねたところ、不思議なリクエストがやってきた。
首を傾げつつ了承すると、ヤツはほんの少し唇の端を吊り上げて笑った。あまり表情が動くことのないカミュの、上機嫌な顔だ。
そんな顔をされてしまっては、叶えぬわけにはいかないではないか。
ということで、自宮に荷物を取りに戻るとその足で瓶宝宮を目指した。甘いものがあまり好きではないカミュの為に作ってもらった甘さ控えめのブランデーケーキととっておきのワインを片手に。
「遅かったな」
俺が宮のプライベートスペースへと足を踏み入れると、ソファーに座っていたカミュが声を掛けた。視線は手元の文庫本に向いたままだが、雰囲気から浮足立っているのが分かる。
「そうでもないだろう。定時で切り上げてきたんだ。遅く感じたならば、それはキミがそわそわしているからだ」
からかい交じりで指摘すると、カミュはばつが悪そうに眉根を寄せ小さく咳払いをした。
「happyBIRTHDAY、カミュ。今年も、元気なキミを見られてうれしいよ」
「私の誕生日を祝うつもりならば、そんな所に突っ立っていないで、こちらへ来い」
照れ隠しなのかいつもより不愛想なカミュが示したのは、彼の膝の上。当たり前のようにぽんぽんと膝を打ち、こちらをじっと見つめている。
「は?」
意味が分からない。カミュに欲しいものを聞いたときから頭の中は疑問符でいっぱいだが、今度のことで益々意味が分からなくなった。
「俺、訓練が終わってから風呂に入ってないから。汚いぞ」
カミュからの返事はなく、期待を含んだ瞳でこちらを見つめている。これでは、拒否するわけにはいかず。テーブルの上にケーキとワインを置く。恐る恐る、カミュの膝の上に腰かけた。
がっちりと、腰に回されるカミュの腕。背中にカミュのぐりぐりと額が押し付けられる。
「ちょ、カミュ。俺本当に汗臭いし、埃っぽ「いいから、黙れ」」
カミュの指先が汗ばんで重くなった髪に触れる。優しく梳くように撫でつけ、それからジットリとした地肌をマッサージするように髪を掻き上げたた。スーハ―と後ろでカミュが深呼吸する音が響く。
「汗臭い」
「だろうな。キミの望み通り今日は沢山汗をかいたからな」
カミュからのリクエストは『沢山汗をかいて、そのまま会いに来てほしい。夜は一緒に過ごしたい』だった。夜は一緒に過ごしたいはわかるとして、汗をかいてこいとは一体どういうことだ?カミュの膝の上に抱きかかえられている今でも、彼の意図がよく分からない。ぼんやりと考え事をしていると、項をぬるりとした感触が撫で上げた。ゾクリとしたものが背中を這い上がってくる。不意打ちに身をすくませると、背後でクツクツと喉を鳴らすような笑い声が聞こえた。
「な、何するんだ!」
「驚きすぎだぞ、ミロ。私はただ、お前の首筋を舐めただけだ。あまりにいい匂いがしたのでな」
「は?汗臭いと言ったのはどの口だ」
「この汗の匂いこそが極上なのだ。どんな香水でも、この香りにはかなわぬ」
蕩けるような甘ったるい声で、カミュが囁く。振り返ってみると、見たこともないほどうっとりとした顔で、俺の髪に口づけていた。
何がそんなにうれしいのやら?
頭のいいやつの考えることは分からんと、首を傾げる。少し居心地が悪い気がして、尻をもぞもぞと動かすと、ぴたりと密着している腰のあたりに、何か固い物が押しあたっている気がするのは…気のせいに違いない。
「カミュ。俺はそろそろ風呂に入りたいのだが。汗が張り付いて気持ち悪い」
「ん?そうだな。もう少しこの香りを堪能していたい気もするが…ミロは鍛錬で腹が空いているだろう。さっさと風呂に入って、夕飯にしよう。お前が風呂から出てくるころにはキッシュもちょうどよく焼きあがっているだろうから」
「ありがとう。カミュの誕生日なのに、メシの支度をさせてしまってなんだか悪いな」
「気にすることはない、私がしたくてすることだ。それでな、風呂に入ったらこれで体を隅々まで洗ってくれ」
「は、い?」
今一つ状況が呑み込めない俺に、カミュは淡いピンクのボトルを握らせた。
「ミロの体臭と混ざり合って、とてもよい香りになると思うのだ。もちろん、汗の匂いにはかなわぬがな」
滅多に見られない極上の微笑みで頼まれてしまっては、断る事なんてできない。俺はこくりと頷くと、ボトルを手に風呂へと向かった。
END
私にエロの文才があったならば、何ラウンドか終えた後のピロートークでミロの汗のにおいに興奮するカミュを書きたい。が、そんな技量はないので出来上がったのがこの話。
ご飯の後はミロを膝の上に抱えてスーハ―タイムして、もしかしたら美味しくいただいちゃうかもしれませんね。
2016/01/26 (Tue)10:33
バンプの「天体観測」が好きすぎて、どのジャンルでも一度はネタにしています。そういえばカミュミロではまだでした。ということで、仕事帰りに妄想。
午前一時五十七分。本来ならばとっくに眠っている時間。闘技場の裏手の森を迷うことなく突き進む。今宵は月もなく、僅かな星の光は木々に遮られているが、そんなことは問題ではない。日ごろからの訓練の賜物で、非常に夜目が利くのでぶつかるどころか、躓くことすらなく目的地まで真っ直ぐに走っていける。
森を抜けると、開けた丘に出る。おかの頂上まで一気に駆け上って辺りを見回し、ため息をついた。
「…遅刻か」
腕時計を確認すれば長針が十二にピタリと重なり、午前二時を回ったところだ。なのに、親友の姿はない。
だから一緒に行こうと言ったのに。
森の奥の丘は、この聖域で二番目に星が綺麗に見えるとっておきのスポットだ。けれどわざわざこんな所まで来なくても、聖域では星が綺麗に見える場所はいくらでもある。ここは二人だけの特等席なのだ。
いつもならば、どちらかの宮で待ち合わせをして一緒に出掛けるのに、今日に限って別がいいとミロが言いだした。理由を尋ねても『何となく』としか言わず、釈然としないまま了承したのだった。
「おーい、待たせたな!」
丘の裾野から、ミロが駆け上がってくる。いつもと同じ「なんだそれは」と言いたくなるほどの荷物を背負い込んで。
「遅刻だぞ、ミロ」
「もう、細かい男だなキミは。たった二分くらい大目に見ろよ」
少し頬を膨らませながら、ミロは鞄から毛布を取り出した。水筒と夜食と小さなラジオ。天体観測に来たというのに、望遠鏡も図鑑も星座早見版すら持っていないところが彼らしい。
「カミュ、寒い」
「相変わらずお前は軟弱だな」
「違う、カミュがおかしいんだ。あんな雪と氷しかない場所にずっといるから」
ぶつくさと文句を言うミロに、苦笑しながら一緒に毛布にくるまる。私よりもミロの方が体温が高いから、温かい思いをしているのは私の方だ。彼は、水筒から温かいココア(匂いで分かる)を一口飲むと、こちらに回してくれた。
「極大にはまだ時間があるが、今の時間帯でもそこそこの数が流れるだろう」
ミロが用意してくれたサンドイッチを齧りながら、空から振ってくる星の数を数えた。いつもは、寒くないようにぴったりとくっついているのに、今日のミロは落ち着きがない。離れたかと思うと小指の先ほどの隙間を作る。けれどすぐに引っ付いてくる。その繰り返しだ。どうしたと口を開きかけて、遮られた。ミロが天に輝く星の一つを指さして聞いた。
「なぁ、カミュ。あの星は何?」
「あれは双子座の一等星カストルだな」
私は図鑑を開いて、ミロに見せた。それから双子座を構成している星の説明、神話を簡単に語った。ミロは星と図鑑とを見比べながら、興味深そうに耳を傾けていた。
「サガはさ、片割れを探しに行ったのかな?」
「ん?」
「双子座の聖闘士なら、もしかしたら双子だったかもしれないだろ。サガが聖域からいなくなったのは、生き別れた兄弟を探しに行ったのかもしれない。死んだ兄を思って死の国に行こうとしたポルクスみたいに」
「…サガは責任感の強い男だ。例え肉親を捜しに行くのだとしても、黙っていなくなるようなまねはしない」
「でも、何か理由があったのかもしれん。誰にも言えないような!」
必死で捲し立てるミロに驚いて目を丸くする。ミロは、ハッと我に返ると力なく視線を地面へと落とした。
「すまん、変なことを言った。忘れてくれ」
「どうした?今日のミロはおかしいぞ」
私よりも一回り小さな体が小刻みに震えている。問い詰めようにも、ミロは頑なに口を閉ざしたままだ。仕方なく私も追及は諦め、星空へと視線を戻した。ラジオからは場違いなほど明るい音楽が流れ、対照的に空からは厳かな星の涙が流れていた。
この時の私は知らなかった。
すぐそばの未来も、ミロの行動の理由も、それから自分の気持ちさえも。
次の日、私は教皇から勅命を受けた。
シベリアの永久凍土の中から発見された白鳥座の聖闘士を育てるようにと。
続く
別にこの話、サガは関係ないです。
時期的に冬の話にしたくて、ちょうど双子座流星群が12月だったので使っただけなので(;^ω^)
さて、次はミロ編書くぞ!
午前一時五十七分。本来ならばとっくに眠っている時間。闘技場の裏手の森を迷うことなく突き進む。今宵は月もなく、僅かな星の光は木々に遮られているが、そんなことは問題ではない。日ごろからの訓練の賜物で、非常に夜目が利くのでぶつかるどころか、躓くことすらなく目的地まで真っ直ぐに走っていける。
森を抜けると、開けた丘に出る。おかの頂上まで一気に駆け上って辺りを見回し、ため息をついた。
「…遅刻か」
腕時計を確認すれば長針が十二にピタリと重なり、午前二時を回ったところだ。なのに、親友の姿はない。
だから一緒に行こうと言ったのに。
森の奥の丘は、この聖域で二番目に星が綺麗に見えるとっておきのスポットだ。けれどわざわざこんな所まで来なくても、聖域では星が綺麗に見える場所はいくらでもある。ここは二人だけの特等席なのだ。
いつもならば、どちらかの宮で待ち合わせをして一緒に出掛けるのに、今日に限って別がいいとミロが言いだした。理由を尋ねても『何となく』としか言わず、釈然としないまま了承したのだった。
「おーい、待たせたな!」
丘の裾野から、ミロが駆け上がってくる。いつもと同じ「なんだそれは」と言いたくなるほどの荷物を背負い込んで。
「遅刻だぞ、ミロ」
「もう、細かい男だなキミは。たった二分くらい大目に見ろよ」
少し頬を膨らませながら、ミロは鞄から毛布を取り出した。水筒と夜食と小さなラジオ。天体観測に来たというのに、望遠鏡も図鑑も星座早見版すら持っていないところが彼らしい。
「カミュ、寒い」
「相変わらずお前は軟弱だな」
「違う、カミュがおかしいんだ。あんな雪と氷しかない場所にずっといるから」
ぶつくさと文句を言うミロに、苦笑しながら一緒に毛布にくるまる。私よりもミロの方が体温が高いから、温かい思いをしているのは私の方だ。彼は、水筒から温かいココア(匂いで分かる)を一口飲むと、こちらに回してくれた。
「極大にはまだ時間があるが、今の時間帯でもそこそこの数が流れるだろう」
ミロが用意してくれたサンドイッチを齧りながら、空から振ってくる星の数を数えた。いつもは、寒くないようにぴったりとくっついているのに、今日のミロは落ち着きがない。離れたかと思うと小指の先ほどの隙間を作る。けれどすぐに引っ付いてくる。その繰り返しだ。どうしたと口を開きかけて、遮られた。ミロが天に輝く星の一つを指さして聞いた。
「なぁ、カミュ。あの星は何?」
「あれは双子座の一等星カストルだな」
私は図鑑を開いて、ミロに見せた。それから双子座を構成している星の説明、神話を簡単に語った。ミロは星と図鑑とを見比べながら、興味深そうに耳を傾けていた。
「サガはさ、片割れを探しに行ったのかな?」
「ん?」
「双子座の聖闘士なら、もしかしたら双子だったかもしれないだろ。サガが聖域からいなくなったのは、生き別れた兄弟を探しに行ったのかもしれない。死んだ兄を思って死の国に行こうとしたポルクスみたいに」
「…サガは責任感の強い男だ。例え肉親を捜しに行くのだとしても、黙っていなくなるようなまねはしない」
「でも、何か理由があったのかもしれん。誰にも言えないような!」
必死で捲し立てるミロに驚いて目を丸くする。ミロは、ハッと我に返ると力なく視線を地面へと落とした。
「すまん、変なことを言った。忘れてくれ」
「どうした?今日のミロはおかしいぞ」
私よりも一回り小さな体が小刻みに震えている。問い詰めようにも、ミロは頑なに口を閉ざしたままだ。仕方なく私も追及は諦め、星空へと視線を戻した。ラジオからは場違いなほど明るい音楽が流れ、対照的に空からは厳かな星の涙が流れていた。
この時の私は知らなかった。
すぐそばの未来も、ミロの行動の理由も、それから自分の気持ちさえも。
次の日、私は教皇から勅命を受けた。
シベリアの永久凍土の中から発見された白鳥座の聖闘士を育てるようにと。
続く
別にこの話、サガは関係ないです。
時期的に冬の話にしたくて、ちょうど双子座流星群が12月だったので使っただけなので(;^ω^)
さて、次はミロ編書くぞ!