腐った妄想の吐きだし口。
現在は聖闘士星矢の蠍座のミロのハマっております。
2016/08/08 (Mon)00:33
…ノン、カノン。
名前を呼ばれた気がして、重たい瞼を抉じ開けた。ぼやけた視界に金の巻き毛が映る。
ミロも、こんな髪をしていたな。あいつはいまどうしているのだろう…。
「カノン、しっかりしろ。戻って来い」
頬をペシペシと叩かれ、悪夢につかまっていた頭が一気に覚醒した。
サガによって、スニオン岬に幽閉された後、俺は奇跡的に海界へと逃れ、海神ポセイドンを欺いて世界征服を企んだ。アテナと聖闘士たちに野望を打ち砕かれた後は、贖罪の道を探し一度は裏切った女神の元へとたどり着いた。聖戦の最中、ミロと再会も果たした。立派な戦士へと成長したミロは、赦しのスカーレットニードルを俺に打ち込み、聖闘士として、そして一人の男として認めてくれたのだ。
「み、ろ…。ミロか」
蒼い大きな瞳が、心配そうにこちらを見下ろしている。最近出来た年下の恋人は、少々過保護なところがある。
「大丈夫か、カノン。酷くうなされていたぞ」
ミロは水の入ったグラスを、手渡してくれた。一気に水を飲みほし、大きく伸びをした。部屋の中が薄暗い。双児宮の自室で、ミロが仕事を終えるのを待っているうちに、いつのまにやらうたた寝をしてしまったようだ。
「少々、夢見が悪かった」
「そのようだな」
ミロは隣に腰かけると、俺の頬に自分の頭を押し付けた。
「知っているか。悲しい時や落ち込んでいるときは、小さくて柔らかいものを抱くといいらしいぞ」
「お前のどこが柔らかくて小さいのだ」
「髪質だけは、癒し系だと自負している。カミュやシャカで実証済みだ」
フフフ、と子供のように無邪気に笑うとミロは撫でろと言わんばかりに俺の手を自分の髪へと持っていく。モフモフとした髪は触り心地がよく、シャンプーの清潔な香りが鼻孔をくすぐる。夢の中とは違い、すっかり逞しくなった体をぎゅっと抱きしめる。ミロが傍にいてくれるのが純粋に嬉しい。
「とても恐ろしい夢を見たのだ。お前に忘れ去られてしまう夢だ」
夢と言うよりは過去なのだが、幻朧魔皇拳で記憶を消されているミロはそのことを知らない。だが、それでもいいのだと、最近になって漸く思えるようになってきた。あのかけがえのない日々は俺がが一つ残らず覚えているから問題ない。それよりも、ミロがもう一度自分に恋してくれたことが嬉しい。
「カノン、もしもな。俺が記憶喪失になったとしてだ」
「ん?」
「おまえのことをきれいさっぱり忘れてしまったとしても、俺はもう一度カノンに恋をすると思う」
突然の告白に胸が詰まる。ミロは驚いた顔をしている俺の髪をあやす様に撫でつけると、さも当たり前だというように口の端を吊り上げた。
「俺の魂が変わらぬ限り、求める物は同じに決まっているだろう」
頬を温かい涙が流れた。その言葉が真実であることを、俺だけが知っている。
「結婚しよう」
ごくごく自然に、その言葉は口から飛び出してきた。ミロは驚いて目を見開くと息を飲んだ。
「お前さえ良ければ、明日にでも女神と教皇に報告に行こう。双児宮はサガに任せて、俺はミロの元に嫁に行く」
「カノンが嫁なのか?」
「なんだ、その返事は。折角のプロポーズが台無しだ」
おどけて肩を竦めると、ミロは「すまん」と謝罪した。
「嫁に来ると聞いて、俺はサガに殴られるのかと、そっちに意識がいってしまったのだ」
「やめてくれ、気持ち悪い。あの常識とやらに憑りつかれた愚兄のことだ、あまりの嬉しさに失神するかもしれんぞ」
結婚の挨拶をしている最中に、サガの顔色が赤くなったり青くなったりする様を思い浮かべ、二人で額を合わせて笑い合った。
「あぁ、いっそのこと聖闘士も海将軍も寿退社して、専業主婦にでもなってしまおうか」
「ほう、新妻らしく白いフリルのエプロンでもするか?」
ニヤニヤとミロが囃し立てる。俺はミロのふわふわした前髪を掻き上げると、額にキスをした。
「そうだ。お前が望むなら裸エプロンでもいい。新婚のお約束、『飯にするか?風呂にするか?、もちろん俺だろ!』もしてやるぞ。ベッドの中で蕩けるまで愛してやる」
「要らんよ。大男の裸エプロンなど、恐ろしいにも程がある」
「言ったな。では、俺が世界一裸エプロンの似合う男だということを証明しよう」
もう一度ミロの額にキスをした。両頬、鼻の頭、顎、そして赤く色づいた唇に。愛しい者の体温を感じられる幸せを感じながら。
END
長いこと放置でしたが、女装カノンとチビミロさんのお話、これにて完結です。応援して下さった皆様、ありがとうございました。
八月いっぱい公開したのち、加筆修正して11月のパラ銀に出す予定なので取り下げます。
10話と11話の間がかなり空いているので明日にでも纏めて支部にUPするつもりでいます。読み辛いと思った方はそちらをお待ちください。では。
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2016/08/07 (Sun)23:48
東の空が薄らと明るくなり始めた頃、トントンと部屋のドアを叩く音が響いた。ドア越しでもはっきりとわかる気配に、俺は舌打ちをし仮面をつけた。それとほぼ同時に扉が開き、サガが再び顔を出した。
「お別れは済んだかい?」
「うん。ありがとう、さが」
ミロは仮面越しに俺の顔を見つめると、こくりと頷いた。
柔らかなミロの感触が遠ざかる。名残り惜しさにミロの服を掴もうとしたが、それよりも一瞬早く、ミロはサガの元へと駆け出した。一度も振り返ることなく、ドアをくぐるとこちらに背を向けたまま
「いってきます」
と元気に声を張り上げた。
振り向いたら、泣いてしまいそうなのだろう。少し声が上ずっていたが、それは聞かなかったことにする。
「ではな、カノン」
サガがそっとドアを閉める。その瞬間、細くなった隙間から、不気味に目を細めたサガがミロを見詰めていたのを、俺は見逃さなかった。
怖気が背筋に走った。
このまま二人を帰してはいけないと直感が告げる。
急いでベッドから飛び降りるとドアを蹴り上げ家の外へと飛び出した。だが、既に二人の姿は見当たらない。
こんな短時間で、二人の姿を見失うなどあるはずがない。
サガはミロに何か危害を加えるつもりだ。恐らく教皇の指示で。
暗闇に意識を集中させると、サガの小宇宙を探った。どんなに上手く気配を消そうとも双子だから分かる。
頼む、間に合ってくれ。
微かな小宇宙をたよりに、祈るような気持で駆け出した。
僅かな小宇宙を辿って、たどり着いたのは俺たちがいつも逢瀬に使っていたあの泉の場所だった。
生い茂る木々がこんなに邪魔だと思ったことはない。不安に押しつぶされそうになりながら、茂みを抜けると視界に飛び込んで来たのはサガに追い詰められたミロの姿だ。
サガの右手がミロに狙いを定める。
間に合え、間に合ってくれ、頼む!
もつれそうになる足を動かして、精一杯手を伸ばして二人を止めたくて。必死に声を張り上げて叫んだ。
「幻狼魔「止めろ、止めてくれ!」
サガは瞳を閉じると、そのままミロへと技を繰り出した。まばゆい閃光がミロの額を撃ち抜く。
「ミロォォォ」
ミロの体がゆっくりと崩れ落ちる。地面に叩きつけられる寸前に、サガの手がそれを阻んだ。
「ミロに触るなぁぁ」
力任せにサガを突き飛ばし、ミロを引き離すと、丁寧に木陰にその体を横たえた。よほど怖かったのだろう。気を失ってもミロの顔は青ざめたままだ。
後でサガが何か言い訳の言葉を吐いていた。けれどそんなの聞こえない。耳の奥がバクバクと五月蠅い。目の前が赤一色に染まる。
サガが言い終える前に、俺はサガの顔を力任せにぶん殴った。サガの体が宙を舞い、顔から地面へと叩きつけられた。ヤツが起き上がる前に馬乗りになると、激しく顔を殴りつけた。サガの唇が切れ、血反吐が舞った。だがサガは、一つも抵抗することなく、殴られるがままになっていた。
「戻せ!戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻してくれ…」
初めて出来た、心を許せる仲間だったんだ。
両目から流れる涙が、てんてんと、サガの顔に雨を降らせる。
「俺からミロを取り上げないでくれ。頼むよ兄さん」
「私だって辛い。だが教皇のご支持は絶対だ」
「…分かった。なら、一つ俺の頼みを聞いてくれよ兄さん」
「カノン…。分かった、どんな望みもこのサガが応えて見せよう」
「教皇を殺し、聖域に破滅に導いてくれ」
サガは弟の口から出てきた言葉に恐れおののき、目を見開くと、俺を突き飛ばした。受け身を取るのさえも面倒で、固い地面に叩きつけられた。サガは俺の上にまたがり顔を殴りつける。
「この馬鹿めが!なんと恐れ多いことを抜かすか!」
何度も何度もサガは拳を俺の顔へと叩きこむ。口の中が切れ、口の端から血が滴った。
もうどうでもいい。
何もかもがめんどくさい。けれど、これだけはしなくては。
サガの心の中に悪の種を植え付け、聖域にほころびを作る足掛かりにする。それが俺の復讐。
「サガよ!俺と貴様は双子の兄弟。俺が聖域を憎む様に、貴様も聖域に牙をむく日が来るぞ」
「戯言をぬかすな!」
「どう思うかはお前の自由だ。だが俺には分かる、貴様は聖域に弓を引く!」
「五月蠅い!」
鳩尾への一撃で、俺は意識を手放した。
次に目が覚めた時は岬の牢獄へと幽閉されていた。
2015/09/20 (Sun)23:28
教皇宮へと呼び出された後、初めてミロとの鍛錬をすっぽかした。
教皇の話は、あまりにも過ぎて大半は覚えていない。ただはっきりとわかっているのは、ミロとの別れ。ミロは、俺とサガの区別がつくばっかりに、聖域から叩きだされることになった。そして俺も、「海界の動きを探る」という名目で厄介払いされることが決まった。
なんだこれ?無理やり女として育て、散々人の人生弄んでおいて、それが聖域の為?ミロなんて、漸くトラウマから解放されて、聖域での暮らしに馴染んできたところなのに?俺もミロも、道具じゃない。生きた人間だ!
俺は、ありったけの罵詈雑言を教皇に向かって投げかけた。悔しくて、苦しくて、それなのに平然としているこいつらが憎らしくて。
一発殴ってやろうと、教皇に掴みかかろうとしてサガに阻まれた。「恐れ多い」とサガに殴られ、頭にきて殴り返して…。互いに罵り合う俺たちを、教皇は静かに引き離した。サガを背中に庇いながら、
「お前が憤るのはもっともじゃ。その怒り私にむけよ」
なんて上から目線でふざけたことをぬかして…。
もう、悔しいの通り越して、頭の中がぐちゃぐちゃでどうしていいかわからず、その場から逃げ出した。
夢中で走って、気が付いたらいつもの泉にいて。
そこで、ぼんやりして過ごした。日が暮れるころになって漸く、ここにいたらミロと顔を会せる事実に気が付いて、情けなくも尻尾巻いて自宅へと逃走したわけだ。
※※※※※※※※※
窓の外はすっかり暗くなった。朝食以降、何も食べてないから腹は鳴るけれど、何も食べる気がしない。ベッドの上に寝そべり、枕を抱えながらこれからのことを考える。
このまま、あいつらの言付け通りに海界へ偵察に行き、これからも聖域の犬として生きるのか。
ここで見切りをつけて、聖域を飛び出し新たな生き方を探すか。
どちらに進むにしても、ミロはどうする?消耗品にされるのが分かっていて聖域に残していくのか、それとも危険を承知で連れていくか…。
コンコンと、ノックの音が響いた。ふと我に返り、長年の習慣で慌てて仮面を被る。音の方に視線を向けると、ドアが開きサガに連れられたミロが顔を出した。
「かのん」
「ミロが、どうしてもお前に会いたいというのでね」
サガはミロを残して、部屋から出ていった。
俺はベッドから動かなかった。ミロもドアの前から動かなかった。
二人の間に沈黙が流れる。
「かのん、おれ……。とおくにいくよ。がんばって、ごーるどせいんとになってもどってくる」
「……お前みたいなチビが本当に黄金聖闘士になれると思っているの?」
ミロは、静かにベッドに歩み寄ると俺の手をそっと握った。
「無理よ。お前みたいなチビが過酷な訓練に耐えられるわけないわ。ミロ、私と逃げよう。ここじゃない場所へ行って二人で暮らそう。当てはないけど、でも私がいるから!」
「かのん、おれ、ごーるどせいんとになりたいのよ!つよいひとになりたいの」
「私と離れ離れになっても?」
その言葉に、ミロの瞳に不安の色がよぎった。けれど、意を決したように俺の瞳を真っ直ぐに見つめると、こくりと頷いたのだ。
「おれ、ひとりでも、がんばる。かのんに、はずかしくない、ひとになりたい!」
「…ミロ…」
なんだよ、チビのくせに。いっちょまえな口ききやがって、ムカつく。これじゃ、あれこれ悩んでた俺が、弱虫の臆病者みてぇじゃねーか。
ミロの腕を掴むと、強引にベッドの上へと抱き上げた。ふわふわの髪に顔を埋めると、何故か涙が出てくる。
何でこいつ泣かねーんだよ!俺ばっかり情けねーじゃんか!!
泣いていることを悟られたくなくて、必死に唇を噛みしめていると急に視界が明るくなった。
「!?」
「なんだ。やっぱりきのうのさがは、かのんなのね」
「ちょ!?お前、この流れで仮面取るとか、何なんだよ!」
「だって、かのんとさが、にてるけどちがうのに。おれ、まちがわないのに、みんなまちがったっていうから」
ミロは頬をぷくっと膨らませると「かのん、うそつき、だめよ!」と俺の鼻先を指で弾いた。
あっけに取られて、口をパクパクする俺。ミロは俺の頬を両手で包むと、更なる爆弾を落とした。
「だいじょうぶよ。かのん、みろとけっこんしよ。せきにん!とるのよ」
うん、そう言ってくれるのは嬉しいけどね。君、絶対に「結婚」の意味わかってないでしょ?
なんだよ、本当に迷惑なやつ。ガキのくせにさらっと男前な台詞吐きやがって、不覚にもときめいちまったじゃねーかよ!だって、今までサガの付属品としか見られてなくて…誰も俺自身を気にかけてくれた奴なんかいなくて…。だから、こんな子供の戯言さえも嬉しいなんて、俺頭イカれてる。でも、本当に嬉しくて…。
ミロの顎を捕まえると、強引に口づけ舌をねじ込む。歯列をなぞり、奥に縮こまっている舌を探り出し絡ませる。ミロが俺の胸を叩いて苦しいと訴えるけど、そんなの知るか!炊きつけたお前が悪い。
たっぷり3分は唇を蹂躙した。唇を離すと、ミロは真っ赤な顔で腕の中に倒れこんできた。
「お子様ねぇ。私と結婚したいなら、最低これくらいは頑張ってもらわなきゃ!」
自分だって初めてのキスだったくせに、大人ぶってみせる。腕の中のミロは、ますます顔を赤くして、俺の胸に顔を埋めた。
4歳児あいてだったら、この辺が限度だよね(>_<)ってか、この辺はセーフですよね?
教皇の話は、あまりにも過ぎて大半は覚えていない。ただはっきりとわかっているのは、ミロとの別れ。ミロは、俺とサガの区別がつくばっかりに、聖域から叩きだされることになった。そして俺も、「海界の動きを探る」という名目で厄介払いされることが決まった。
なんだこれ?無理やり女として育て、散々人の人生弄んでおいて、それが聖域の為?ミロなんて、漸くトラウマから解放されて、聖域での暮らしに馴染んできたところなのに?俺もミロも、道具じゃない。生きた人間だ!
俺は、ありったけの罵詈雑言を教皇に向かって投げかけた。悔しくて、苦しくて、それなのに平然としているこいつらが憎らしくて。
一発殴ってやろうと、教皇に掴みかかろうとしてサガに阻まれた。「恐れ多い」とサガに殴られ、頭にきて殴り返して…。互いに罵り合う俺たちを、教皇は静かに引き離した。サガを背中に庇いながら、
「お前が憤るのはもっともじゃ。その怒り私にむけよ」
なんて上から目線でふざけたことをぬかして…。
もう、悔しいの通り越して、頭の中がぐちゃぐちゃでどうしていいかわからず、その場から逃げ出した。
夢中で走って、気が付いたらいつもの泉にいて。
そこで、ぼんやりして過ごした。日が暮れるころになって漸く、ここにいたらミロと顔を会せる事実に気が付いて、情けなくも尻尾巻いて自宅へと逃走したわけだ。
※※※※※※※※※
窓の外はすっかり暗くなった。朝食以降、何も食べてないから腹は鳴るけれど、何も食べる気がしない。ベッドの上に寝そべり、枕を抱えながらこれからのことを考える。
このまま、あいつらの言付け通りに海界へ偵察に行き、これからも聖域の犬として生きるのか。
ここで見切りをつけて、聖域を飛び出し新たな生き方を探すか。
どちらに進むにしても、ミロはどうする?消耗品にされるのが分かっていて聖域に残していくのか、それとも危険を承知で連れていくか…。
コンコンと、ノックの音が響いた。ふと我に返り、長年の習慣で慌てて仮面を被る。音の方に視線を向けると、ドアが開きサガに連れられたミロが顔を出した。
「かのん」
「ミロが、どうしてもお前に会いたいというのでね」
サガはミロを残して、部屋から出ていった。
俺はベッドから動かなかった。ミロもドアの前から動かなかった。
二人の間に沈黙が流れる。
「かのん、おれ……。とおくにいくよ。がんばって、ごーるどせいんとになってもどってくる」
「……お前みたいなチビが本当に黄金聖闘士になれると思っているの?」
ミロは、静かにベッドに歩み寄ると俺の手をそっと握った。
「無理よ。お前みたいなチビが過酷な訓練に耐えられるわけないわ。ミロ、私と逃げよう。ここじゃない場所へ行って二人で暮らそう。当てはないけど、でも私がいるから!」
「かのん、おれ、ごーるどせいんとになりたいのよ!つよいひとになりたいの」
「私と離れ離れになっても?」
その言葉に、ミロの瞳に不安の色がよぎった。けれど、意を決したように俺の瞳を真っ直ぐに見つめると、こくりと頷いたのだ。
「おれ、ひとりでも、がんばる。かのんに、はずかしくない、ひとになりたい!」
「…ミロ…」
なんだよ、チビのくせに。いっちょまえな口ききやがって、ムカつく。これじゃ、あれこれ悩んでた俺が、弱虫の臆病者みてぇじゃねーか。
ミロの腕を掴むと、強引にベッドの上へと抱き上げた。ふわふわの髪に顔を埋めると、何故か涙が出てくる。
何でこいつ泣かねーんだよ!俺ばっかり情けねーじゃんか!!
泣いていることを悟られたくなくて、必死に唇を噛みしめていると急に視界が明るくなった。
「!?」
「なんだ。やっぱりきのうのさがは、かのんなのね」
「ちょ!?お前、この流れで仮面取るとか、何なんだよ!」
「だって、かのんとさが、にてるけどちがうのに。おれ、まちがわないのに、みんなまちがったっていうから」
ミロは頬をぷくっと膨らませると「かのん、うそつき、だめよ!」と俺の鼻先を指で弾いた。
あっけに取られて、口をパクパクする俺。ミロは俺の頬を両手で包むと、更なる爆弾を落とした。
「だいじょうぶよ。かのん、みろとけっこんしよ。せきにん!とるのよ」
うん、そう言ってくれるのは嬉しいけどね。君、絶対に「結婚」の意味わかってないでしょ?
なんだよ、本当に迷惑なやつ。ガキのくせにさらっと男前な台詞吐きやがって、不覚にもときめいちまったじゃねーかよ!だって、今までサガの付属品としか見られてなくて…誰も俺自身を気にかけてくれた奴なんかいなくて…。だから、こんな子供の戯言さえも嬉しいなんて、俺頭イカれてる。でも、本当に嬉しくて…。
ミロの顎を捕まえると、強引に口づけ舌をねじ込む。歯列をなぞり、奥に縮こまっている舌を探り出し絡ませる。ミロが俺の胸を叩いて苦しいと訴えるけど、そんなの知るか!炊きつけたお前が悪い。
たっぷり3分は唇を蹂躙した。唇を離すと、ミロは真っ赤な顔で腕の中に倒れこんできた。
「お子様ねぇ。私と結婚したいなら、最低これくらいは頑張ってもらわなきゃ!」
自分だって初めてのキスだったくせに、大人ぶってみせる。腕の中のミロは、ますます顔を赤くして、俺の胸に顔を埋めた。
4歳児あいてだったら、この辺が限度だよね(>_<)ってか、この辺はセーフですよね?
2015/08/26 (Wed)22:47
「あら、カノン。もう体の具合はいいの?寝込むほどだったんだから、よほど具合が悪かったんでしょう?」
闘技場に着くなり、嫌な声を聞いた。
きたよ、インケン女ども。朝からねちねちと、うざい事この上ない。昨日いびれなかった分まで、今日きっちり絡むつもりらしい。全く、迷惑なやつらだ。
いつもなら、無視して素通りするのだが、今日は気分がいい。少しくらいなら挑発に乗ってやっても構わない。場合によっては、手合せに持ち込んでぶちのめしてもいいしな。
「ご心配ありがとう。一晩眠ったら全快したわ」
「あらそうなの。元気なだけが取り柄のカノンが、寝込むなんて珍しいからお家までお見舞いに行ったの。折角お昼を一緒に食べようと思ったのに、留守だなんてがっかりだった」
「みんな心配してたのにね。どこに雲隠れしてたのやら。この話が、先輩聖闘士ーお姉さまー方のお耳に入ったら、失望されるでしょうね」
うわぁ~、わざわざ人の家まで見に来るとかどんだけ暇なんだよ!
嫌がらせも、そこまですると鬱陶しいを通り越して尊敬する。
「ゴメンナサイネ。昨日は、彼がどうしても一緒に(鍛錬)したいって言うから…断れなくて」
語尾にハートマークが付きそうなほど甘ったるい声を出す。相手は「な!?」とか「ふぁ!!」とか間抜けな声を出すからおかしくて堪らない。
粋がっていても、所詮は年頃の生娘。男女のアレコレに興味津々、でもアテナの聖闘士候補生というプライドが彼女たちを女にすることを許さない。
別にアテナは恋愛を否定しているわけではないのに。それは、仮面の掟を考えればわかりそうなものだ。『素顔を見られたら、相手を殺すか愛するか』つまり、憧れや戯れのような生半可な気持ちじゃなくて、命がけの嵐のような激しい恋ならば構わないということだ。
そのことに気が付かずに、自分で自分の首を絞めている女は多い。
「彼ね、私にとってもたいせつな…(食糧のリンゴ)をくれたの。だから私も…(鍛錬に付き合って)あげたわ。もちろん、私は補欠とはいえ聖闘士、私の忠誠はアテナのもの。でも、彼が私(との鍛錬)に夢中で、放してくれそうにないの」
わざとらしい熱弁を続けていると、インケン女どもは「汚らわしい!」とか「お前みたいな女は、上に訴えて追い出してやる!」とかぎゃんぎゃん吼えながら尻尾を巻いて逃げていった。
どこにチクる気かはしらないが、のぞむところだ。いざとなったらサガを引っ張り出しミロに鍛錬を付けている話をすればいい。実際に昨日は、あの後いつもの泉でミロの鍛錬に付き合っていたのだから。
笑いをかみ殺しながら、いつも通り闘技場の隅でストレッチを始める。
「カノン、教皇がお呼びだって」
先ほどの一派とは別グループの女子が、のんびりとした口調で要件を告げた。
「私に??」
「うん。なんだか、険しい顔のサガ様もいらしたみたい。何したか知らないけど、早めに謝った方がいいよ」
さっきの女どもが騒ぎを起こしたにしては、対応が早すぎる。とてつもなく、嫌な予感が胸をよぎった。
続く
このわざとらしい惚けを書きたくて、陰険同僚だしました。
思い通りに持ってこられて満足。次回はいよいよ、カノンがポロリしますよ!
闘技場に着くなり、嫌な声を聞いた。
きたよ、インケン女ども。朝からねちねちと、うざい事この上ない。昨日いびれなかった分まで、今日きっちり絡むつもりらしい。全く、迷惑なやつらだ。
いつもなら、無視して素通りするのだが、今日は気分がいい。少しくらいなら挑発に乗ってやっても構わない。場合によっては、手合せに持ち込んでぶちのめしてもいいしな。
「ご心配ありがとう。一晩眠ったら全快したわ」
「あらそうなの。元気なだけが取り柄のカノンが、寝込むなんて珍しいからお家までお見舞いに行ったの。折角お昼を一緒に食べようと思ったのに、留守だなんてがっかりだった」
「みんな心配してたのにね。どこに雲隠れしてたのやら。この話が、先輩聖闘士ーお姉さまー方のお耳に入ったら、失望されるでしょうね」
うわぁ~、わざわざ人の家まで見に来るとかどんだけ暇なんだよ!
嫌がらせも、そこまですると鬱陶しいを通り越して尊敬する。
「ゴメンナサイネ。昨日は、彼がどうしても一緒に(鍛錬)したいって言うから…断れなくて」
語尾にハートマークが付きそうなほど甘ったるい声を出す。相手は「な!?」とか「ふぁ!!」とか間抜けな声を出すからおかしくて堪らない。
粋がっていても、所詮は年頃の生娘。男女のアレコレに興味津々、でもアテナの聖闘士候補生というプライドが彼女たちを女にすることを許さない。
別にアテナは恋愛を否定しているわけではないのに。それは、仮面の掟を考えればわかりそうなものだ。『素顔を見られたら、相手を殺すか愛するか』つまり、憧れや戯れのような生半可な気持ちじゃなくて、命がけの嵐のような激しい恋ならば構わないということだ。
そのことに気が付かずに、自分で自分の首を絞めている女は多い。
「彼ね、私にとってもたいせつな…(食糧のリンゴ)をくれたの。だから私も…(鍛錬に付き合って)あげたわ。もちろん、私は補欠とはいえ聖闘士、私の忠誠はアテナのもの。でも、彼が私(との鍛錬)に夢中で、放してくれそうにないの」
わざとらしい熱弁を続けていると、インケン女どもは「汚らわしい!」とか「お前みたいな女は、上に訴えて追い出してやる!」とかぎゃんぎゃん吼えながら尻尾を巻いて逃げていった。
どこにチクる気かはしらないが、のぞむところだ。いざとなったらサガを引っ張り出しミロに鍛錬を付けている話をすればいい。実際に昨日は、あの後いつもの泉でミロの鍛錬に付き合っていたのだから。
笑いをかみ殺しながら、いつも通り闘技場の隅でストレッチを始める。
「カノン、教皇がお呼びだって」
先ほどの一派とは別グループの女子が、のんびりとした口調で要件を告げた。
「私に??」
「うん。なんだか、険しい顔のサガ様もいらしたみたい。何したか知らないけど、早めに謝った方がいいよ」
さっきの女どもが騒ぎを起こしたにしては、対応が早すぎる。とてつもなく、嫌な予感が胸をよぎった。
続く
このわざとらしい惚けを書きたくて、陰険同僚だしました。
思い通りに持ってこられて満足。次回はいよいよ、カノンがポロリしますよ!
2015/08/15 (Sat)09:16
ハー、かったるい!
今日の俺は、いつもと違う。仮面も付けてなければ、いつものふざけた恰好もしていない。キンキラキンの甲冑を身に着け、偉そうなジジイの説法をありがたがってるふりをしながら聞き流す。
なんでそんなことしてるのかと言うと、”山羊座の黄金聖闘士の任命の儀”と言う一大イベントで祝辞を述べるはずの愚兄が、風邪をひいて声が出なくなったから。何が悲しくて、こんなクソつまらん式典に参加せねばならぬのやら。
胸の内で毒づきながら、偽善の匂いがする微笑みをキープしつつ、つらつらと祝いの言葉を述べる。
緊張でガチガチになってる小僧には申し訳ないが、兎に角早く終わってほしい。
1時間弱の面倒な式典から漸く解放され、晴れて自由の身となった。仔山羊の世話はアイオロスが引き受けてくれたので、後は自室で仕事をすると言って書類を双児宮の愚兄の元に運べばお役御免となる。
こっそり聖域を抜け出して、久しぶりにポーカーに興じるのもいいな。いいカモが見つかれば小遣い稼ぎになるし。
街に降りることを決め、密かにほくそ笑んでいると不意にミロの顔が頭に浮かんだ。
あのチビ、今頃鍛錬にはげんでいるかな。
何となく気になって、街に出る前に闘技場に顔を出した。数十人の聖闘士の卵たちが、声を張り上げながら、鍛錬に精を出している。
「あ!サガ」
声の方に目を向ければ、丸っこいチビが2匹こちらに向かって駆けてきた。
「ねぇ、さが、にいちゃんは?きょうは、とびげりのれんしゅうにつきあってくれるって、やくそくしてるんだ」
「アイオロスはシュラ、山羊座の聖闘士の面倒を見ているからね。もう少ししたら来るんじゃないかな」
アイオロスがもう少しかかることを説明すると、アイオリアは面白くなさそうに顔をしかめた。きっと、まだ見ぬシュラに、兄を摂られた気分になっているのだろう。全く、このブラコン兄弟め。
アイオリアと話している間、ミロは妙に大人しく俺の顔をまじまじと見つめている。
ん?この感覚覚えがあるぞ…。
「…かのん、どうしてさがのまねっこしてるの?」
嫌な予感は的中で、ミロは俺をカノンだと言い出した。合ってる、合ってるけどこの場合非常にまずい。
「なにいってんだ?みろ。さがはさがだ。かのんじゃない」
「え?りあ、かのんだよ。さがとかのん、にてるけどちがう」
「ミロは面白いことを言うな。カノンは私の妹だよ。流石の私も、女の子と間違えられるのはショックだな」
やんわりと否定をするが、ミロは納得しない顔で「かのんでしょ?」と繰り返した。それをアイオリアに馬鹿にしたように咎められ、二人は睨みあいになっている。
「二人とも落ち着きなさい。仕方がない。私がサガだという証拠を見せようか?」
「「しょうこって??」」
「ここで裸になろう。そうすれば私が男であること、すなわちサガだという証拠になるだろう」
何でこんなことをせねばならんのだ、と思いつつストリップで場が収まるのならば安いものだ。俺がコスモを高めると、聖衣はそれに反応して体から離れオブジェ形態へと形を変えた。上はアンダーを着ていないから筋肉の付いた上半身が露わになる。
「ミロ、これで納得しただろ」
「ほら、さがだった」
ミロは零れ落ちそうなほど目を見開き、渋々といった体で頷いた。
今日の俺は、いつもと違う。仮面も付けてなければ、いつものふざけた恰好もしていない。キンキラキンの甲冑を身に着け、偉そうなジジイの説法をありがたがってるふりをしながら聞き流す。
なんでそんなことしてるのかと言うと、”山羊座の黄金聖闘士の任命の儀”と言う一大イベントで祝辞を述べるはずの愚兄が、風邪をひいて声が出なくなったから。何が悲しくて、こんなクソつまらん式典に参加せねばならぬのやら。
胸の内で毒づきながら、偽善の匂いがする微笑みをキープしつつ、つらつらと祝いの言葉を述べる。
緊張でガチガチになってる小僧には申し訳ないが、兎に角早く終わってほしい。
1時間弱の面倒な式典から漸く解放され、晴れて自由の身となった。仔山羊の世話はアイオロスが引き受けてくれたので、後は自室で仕事をすると言って書類を双児宮の愚兄の元に運べばお役御免となる。
こっそり聖域を抜け出して、久しぶりにポーカーに興じるのもいいな。いいカモが見つかれば小遣い稼ぎになるし。
街に降りることを決め、密かにほくそ笑んでいると不意にミロの顔が頭に浮かんだ。
あのチビ、今頃鍛錬にはげんでいるかな。
何となく気になって、街に出る前に闘技場に顔を出した。数十人の聖闘士の卵たちが、声を張り上げながら、鍛錬に精を出している。
「あ!サガ」
声の方に目を向ければ、丸っこいチビが2匹こちらに向かって駆けてきた。
「ねぇ、さが、にいちゃんは?きょうは、とびげりのれんしゅうにつきあってくれるって、やくそくしてるんだ」
「アイオロスはシュラ、山羊座の聖闘士の面倒を見ているからね。もう少ししたら来るんじゃないかな」
アイオロスがもう少しかかることを説明すると、アイオリアは面白くなさそうに顔をしかめた。きっと、まだ見ぬシュラに、兄を摂られた気分になっているのだろう。全く、このブラコン兄弟め。
アイオリアと話している間、ミロは妙に大人しく俺の顔をまじまじと見つめている。
ん?この感覚覚えがあるぞ…。
「…かのん、どうしてさがのまねっこしてるの?」
嫌な予感は的中で、ミロは俺をカノンだと言い出した。合ってる、合ってるけどこの場合非常にまずい。
「なにいってんだ?みろ。さがはさがだ。かのんじゃない」
「え?りあ、かのんだよ。さがとかのん、にてるけどちがう」
「ミロは面白いことを言うな。カノンは私の妹だよ。流石の私も、女の子と間違えられるのはショックだな」
やんわりと否定をするが、ミロは納得しない顔で「かのんでしょ?」と繰り返した。それをアイオリアに馬鹿にしたように咎められ、二人は睨みあいになっている。
「二人とも落ち着きなさい。仕方がない。私がサガだという証拠を見せようか?」
「「しょうこって??」」
「ここで裸になろう。そうすれば私が男であること、すなわちサガだという証拠になるだろう」
何でこんなことをせねばならんのだ、と思いつつストリップで場が収まるのならば安いものだ。俺がコスモを高めると、聖衣はそれに反応して体から離れオブジェ形態へと形を変えた。上はアンダーを着ていないから筋肉の付いた上半身が露わになる。
「ミロ、これで納得しただろ」
「ほら、さがだった」
ミロは零れ落ちそうなほど目を見開き、渋々といった体で頷いた。