腐った妄想の吐きだし口。
現在は聖闘士星矢の蠍座のミロのハマっております。
2015/11/03 (Tue)00:08
遅刻のハロウィン話。
コツコツと、石段を歩く靴音が響く。白羊宮から続く長い階段を上ってきたが、各宮の主たちの姿は見えず、大半の宮は無人だった。
「その、すまんな二人とも。俺に付き合わせてしまったばかりに…」
「気にするな。俺たちが勝手に付き合ったんだ」
「俺は今更、菓子で喜ぶ年でもないしな。アテナ宮殿に行けば豪華な飯にありつけるんだ、それで十分さ」
右にはネコミミと顔にヒゲを描いただけの簡素な仮装のイオ。左にはイオとは対照的に、半裸に金色の象のマスクを付け、ネズミのぬいぐるみまで用意し気合の入ったバイアンが俺の両側を固めている。そんなふざけた格好の二人に挟まれた俺も、顔は白塗り唇は真っ赤に塗りつぶし、薔薇の造花で作った眼帯を付け、ダボダボの服を着たピエロの恰好をしている。
同僚二人は「気にするな」と微笑むが、俺の胸の内は申し訳なさでいっぱいだった。
【親愛なるジュリアン・ソロ様及びポセイドン様
拝啓 木枯らしが吹き荒れ冬支度を始める今日この頃、海界の皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
こちらも皆、平穏に過ごしております。 さて、10月31日はハロウィンです。聖域にて、ささやかですがパーティーを開くことにいたしました。ぜひ、海闘士の皆様もお揃いでお越しくださいますよう、心よりお待ちしております。冥王ハーデス様の元にも、案内を差し上げました。冥界、地上、海界の絆を深める場となれば幸いです。 敬具】
地上を治める女神から送られてきたパーティーの案内状。てっきり、ジュリアン様と付き人のソレントが顔を出して終わりだと思っていたのに、まさかの海将軍全員参加。もともと人前に出るのがさほど好きではない上に、仮装必須のハロウィンパーティーなど逃げ出したくて堪らない。
どうにか逃げられないかと画策したが、結局捕まり無理やり仮装させられる羽目になった。それでもどうにか、面倒なイベントを一つ避けることは出来た。「12宮、菓子争奪ツアー」夕方5時から7時までの間に、仮装して黄金聖闘士に菓子をねだるというものだ。8時近くとなったこの時間では、どこの黄金聖闘士もアテナ神殿での宴に参加しているのだろう。同僚二人を巻き込んでしまったのは申し訳ないが、一番顔を会せづらい人物と、正面から向き合う機会が一つ潰れたのには、ほっとした。
天秤宮を抜け、天蠍宮へと続く階段へと差し掛かった時だ。
「なんだ、ありゃ?」
バイアンの声に、視線を斜め上の天蠍宮入口へと向ける。宮の入口付近に、何やら揉めているような二つの人影。カミュのいる宝瓶宮はもっと上のはずなのに、すぐ上の宮から漂ってくる懐かしい小宇宙は紛れもなく…。
踵を返そうとしたが一瞬早くイオが俺の腕を掴んだ。
イオは何も言わずにただ俺の顔を見つめている。イオだけではなくバイアンも。二人は何も言わない。ただ俺が進むのを待っている。
仲間の前で無様な醜態をさらすわけにはいかない。
『いかなる敵を前にしてもクールに徹する』
俺は静かに頷いた。そして、足を前に踏み出した。二人も無言のまま、ぴたりと隣に寄り添っていてくれる。
そうして、誰一人として話すことなく足を交互に動かし続け、天蠍宮の前までやってきて…………絶句した。
宮の入口で俺たちを出迎えたのは人魚、人魚、人魚…。豊かな金髪をツインテールに結び、ホタテの貝殻で作ったブラを身に着け、鱗一枚一枚が刺繍された布ですっぽりと爪先までを覆っている姿は仮装としてはよくできているが、残念ながら仮装しているのは筋肉隆々の男だった。そして、もう一人。人魚を抱きかかえているボロボロの訓練着を纏い頭にジャック・オー・ランタンを被っている男。
シュールだ。シュール過ぎる。先程とは別の意味で帰りたい。
だが、ここまで来たら踵を返すのは男としてのプライドが許さない。未だ固まっている二人の脇を通り、師の前に頭を垂れた。
「お久しぶりです。………カミュ」
『我が師』その言葉は、喉の奥に張り付いて出てこなかった。カミュを師と呼んでいいのか、分からなかったから。海魔人の鱗衣に選ばれ海闘士になったことも、ポセイドン様に仕えていることも何一つ恥じることはないと思っている。だがそれを、アテナに仕えるこの人がどう思うかは別の話だ。
一瞬とも永遠ともつかない時間が流れる。
何も言わない師にもう一度頭を下げると、その脇を通り過ぎた。
「アイザックよ」
懐かしい声に名前を呼ばれ、足が勝手に止まる。振り返れば、綺麗な放物線を描いて手の中に落ちてきたのは菓子が入った袋。
抱きかかえていた人魚をそっと石畳の上に下ろすと、南瓜の被り物を脱いだ。さらさらと紅い髪が流れ落ちる。そして、 後ろで固まっている二人を見ると目を細めた。極寒の地シベリアで何度も見た、厳しくも優しい師の顔だ。
「早く行きなさい。今が宴もたけなわだ」
その言葉に、イオとバイアンも漸く石化から解けたようだ。慌てて走り出そうとした二人に、たくましい人魚がピョンピョン跳ねながら近づいた。
「ちょっと待て。これは俺から。ハッピーハロウィン」
人魚は綺麗にラッピングした袋を二人に手渡すと、ひらひらと手を振って俺たちを送り出した。
カミュから渡された菓子はクイニ―アマン。修行時代に時々作ってくれた菓子だった。
聖域からの帰り道、人魚がくれた菓子とカミュがくれた菓子を三人で分け合って食べた。
END
アイザック編を書いたら力尽きた。時間がないので取りあえずここまで。ミロ誕までに時間があったら、カミュ側も書きたいよ。聖域の仮装は被らないようにくじ引きで決めた設定です。後、バイアンの仮装はインドのガネーシャ神ね。
コツコツと、石段を歩く靴音が響く。白羊宮から続く長い階段を上ってきたが、各宮の主たちの姿は見えず、大半の宮は無人だった。
「その、すまんな二人とも。俺に付き合わせてしまったばかりに…」
「気にするな。俺たちが勝手に付き合ったんだ」
「俺は今更、菓子で喜ぶ年でもないしな。アテナ宮殿に行けば豪華な飯にありつけるんだ、それで十分さ」
右にはネコミミと顔にヒゲを描いただけの簡素な仮装のイオ。左にはイオとは対照的に、半裸に金色の象のマスクを付け、ネズミのぬいぐるみまで用意し気合の入ったバイアンが俺の両側を固めている。そんなふざけた格好の二人に挟まれた俺も、顔は白塗り唇は真っ赤に塗りつぶし、薔薇の造花で作った眼帯を付け、ダボダボの服を着たピエロの恰好をしている。
同僚二人は「気にするな」と微笑むが、俺の胸の内は申し訳なさでいっぱいだった。
【親愛なるジュリアン・ソロ様及びポセイドン様
拝啓 木枯らしが吹き荒れ冬支度を始める今日この頃、海界の皆さまはいかがお過ごしでしょうか。
こちらも皆、平穏に過ごしております。 さて、10月31日はハロウィンです。聖域にて、ささやかですがパーティーを開くことにいたしました。ぜひ、海闘士の皆様もお揃いでお越しくださいますよう、心よりお待ちしております。冥王ハーデス様の元にも、案内を差し上げました。冥界、地上、海界の絆を深める場となれば幸いです。 敬具】
地上を治める女神から送られてきたパーティーの案内状。てっきり、ジュリアン様と付き人のソレントが顔を出して終わりだと思っていたのに、まさかの海将軍全員参加。もともと人前に出るのがさほど好きではない上に、仮装必須のハロウィンパーティーなど逃げ出したくて堪らない。
どうにか逃げられないかと画策したが、結局捕まり無理やり仮装させられる羽目になった。それでもどうにか、面倒なイベントを一つ避けることは出来た。「12宮、菓子争奪ツアー」夕方5時から7時までの間に、仮装して黄金聖闘士に菓子をねだるというものだ。8時近くとなったこの時間では、どこの黄金聖闘士もアテナ神殿での宴に参加しているのだろう。同僚二人を巻き込んでしまったのは申し訳ないが、一番顔を会せづらい人物と、正面から向き合う機会が一つ潰れたのには、ほっとした。
天秤宮を抜け、天蠍宮へと続く階段へと差し掛かった時だ。
「なんだ、ありゃ?」
バイアンの声に、視線を斜め上の天蠍宮入口へと向ける。宮の入口付近に、何やら揉めているような二つの人影。カミュのいる宝瓶宮はもっと上のはずなのに、すぐ上の宮から漂ってくる懐かしい小宇宙は紛れもなく…。
踵を返そうとしたが一瞬早くイオが俺の腕を掴んだ。
イオは何も言わずにただ俺の顔を見つめている。イオだけではなくバイアンも。二人は何も言わない。ただ俺が進むのを待っている。
仲間の前で無様な醜態をさらすわけにはいかない。
『いかなる敵を前にしてもクールに徹する』
俺は静かに頷いた。そして、足を前に踏み出した。二人も無言のまま、ぴたりと隣に寄り添っていてくれる。
そうして、誰一人として話すことなく足を交互に動かし続け、天蠍宮の前までやってきて…………絶句した。
宮の入口で俺たちを出迎えたのは人魚、人魚、人魚…。豊かな金髪をツインテールに結び、ホタテの貝殻で作ったブラを身に着け、鱗一枚一枚が刺繍された布ですっぽりと爪先までを覆っている姿は仮装としてはよくできているが、残念ながら仮装しているのは筋肉隆々の男だった。そして、もう一人。人魚を抱きかかえているボロボロの訓練着を纏い頭にジャック・オー・ランタンを被っている男。
シュールだ。シュール過ぎる。先程とは別の意味で帰りたい。
だが、ここまで来たら踵を返すのは男としてのプライドが許さない。未だ固まっている二人の脇を通り、師の前に頭を垂れた。
「お久しぶりです。………カミュ」
『我が師』その言葉は、喉の奥に張り付いて出てこなかった。カミュを師と呼んでいいのか、分からなかったから。海魔人の鱗衣に選ばれ海闘士になったことも、ポセイドン様に仕えていることも何一つ恥じることはないと思っている。だがそれを、アテナに仕えるこの人がどう思うかは別の話だ。
一瞬とも永遠ともつかない時間が流れる。
何も言わない師にもう一度頭を下げると、その脇を通り過ぎた。
「アイザックよ」
懐かしい声に名前を呼ばれ、足が勝手に止まる。振り返れば、綺麗な放物線を描いて手の中に落ちてきたのは菓子が入った袋。
抱きかかえていた人魚をそっと石畳の上に下ろすと、南瓜の被り物を脱いだ。さらさらと紅い髪が流れ落ちる。そして、 後ろで固まっている二人を見ると目を細めた。極寒の地シベリアで何度も見た、厳しくも優しい師の顔だ。
「早く行きなさい。今が宴もたけなわだ」
その言葉に、イオとバイアンも漸く石化から解けたようだ。慌てて走り出そうとした二人に、たくましい人魚がピョンピョン跳ねながら近づいた。
「ちょっと待て。これは俺から。ハッピーハロウィン」
人魚は綺麗にラッピングした袋を二人に手渡すと、ひらひらと手を振って俺たちを送り出した。
カミュから渡された菓子はクイニ―アマン。修行時代に時々作ってくれた菓子だった。
聖域からの帰り道、人魚がくれた菓子とカミュがくれた菓子を三人で分け合って食べた。
END
アイザック編を書いたら力尽きた。時間がないので取りあえずここまで。ミロ誕までに時間があったら、カミュ側も書きたいよ。聖域の仮装は被らないようにくじ引きで決めた設定です。後、バイアンの仮装はインドのガネーシャ神ね。
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