腐った妄想の吐きだし口。
現在は聖闘士星矢の蠍座のミロのハマっております。
2016/08/07 (Sun)23:48
東の空が薄らと明るくなり始めた頃、トントンと部屋のドアを叩く音が響いた。ドア越しでもはっきりとわかる気配に、俺は舌打ちをし仮面をつけた。それとほぼ同時に扉が開き、サガが再び顔を出した。
「お別れは済んだかい?」
「うん。ありがとう、さが」
ミロは仮面越しに俺の顔を見つめると、こくりと頷いた。
柔らかなミロの感触が遠ざかる。名残り惜しさにミロの服を掴もうとしたが、それよりも一瞬早く、ミロはサガの元へと駆け出した。一度も振り返ることなく、ドアをくぐるとこちらに背を向けたまま
「いってきます」
と元気に声を張り上げた。
振り向いたら、泣いてしまいそうなのだろう。少し声が上ずっていたが、それは聞かなかったことにする。
「ではな、カノン」
サガがそっとドアを閉める。その瞬間、細くなった隙間から、不気味に目を細めたサガがミロを見詰めていたのを、俺は見逃さなかった。
怖気が背筋に走った。
このまま二人を帰してはいけないと直感が告げる。
急いでベッドから飛び降りるとドアを蹴り上げ家の外へと飛び出した。だが、既に二人の姿は見当たらない。
こんな短時間で、二人の姿を見失うなどあるはずがない。
サガはミロに何か危害を加えるつもりだ。恐らく教皇の指示で。
暗闇に意識を集中させると、サガの小宇宙を探った。どんなに上手く気配を消そうとも双子だから分かる。
頼む、間に合ってくれ。
微かな小宇宙をたよりに、祈るような気持で駆け出した。
僅かな小宇宙を辿って、たどり着いたのは俺たちがいつも逢瀬に使っていたあの泉の場所だった。
生い茂る木々がこんなに邪魔だと思ったことはない。不安に押しつぶされそうになりながら、茂みを抜けると視界に飛び込んで来たのはサガに追い詰められたミロの姿だ。
サガの右手がミロに狙いを定める。
間に合え、間に合ってくれ、頼む!
もつれそうになる足を動かして、精一杯手を伸ばして二人を止めたくて。必死に声を張り上げて叫んだ。
「幻狼魔「止めろ、止めてくれ!」
サガは瞳を閉じると、そのままミロへと技を繰り出した。まばゆい閃光がミロの額を撃ち抜く。
「ミロォォォ」
ミロの体がゆっくりと崩れ落ちる。地面に叩きつけられる寸前に、サガの手がそれを阻んだ。
「ミロに触るなぁぁ」
力任せにサガを突き飛ばし、ミロを引き離すと、丁寧に木陰にその体を横たえた。よほど怖かったのだろう。気を失ってもミロの顔は青ざめたままだ。
後でサガが何か言い訳の言葉を吐いていた。けれどそんなの聞こえない。耳の奥がバクバクと五月蠅い。目の前が赤一色に染まる。
サガが言い終える前に、俺はサガの顔を力任せにぶん殴った。サガの体が宙を舞い、顔から地面へと叩きつけられた。ヤツが起き上がる前に馬乗りになると、激しく顔を殴りつけた。サガの唇が切れ、血反吐が舞った。だがサガは、一つも抵抗することなく、殴られるがままになっていた。
「戻せ!戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻せ、戻してくれ…」
初めて出来た、心を許せる仲間だったんだ。
両目から流れる涙が、てんてんと、サガの顔に雨を降らせる。
「俺からミロを取り上げないでくれ。頼むよ兄さん」
「私だって辛い。だが教皇のご支持は絶対だ」
「…分かった。なら、一つ俺の頼みを聞いてくれよ兄さん」
「カノン…。分かった、どんな望みもこのサガが応えて見せよう」
「教皇を殺し、聖域に破滅に導いてくれ」
サガは弟の口から出てきた言葉に恐れおののき、目を見開くと、俺を突き飛ばした。受け身を取るのさえも面倒で、固い地面に叩きつけられた。サガは俺の上にまたがり顔を殴りつける。
「この馬鹿めが!なんと恐れ多いことを抜かすか!」
何度も何度もサガは拳を俺の顔へと叩きこむ。口の中が切れ、口の端から血が滴った。
もうどうでもいい。
何もかもがめんどくさい。けれど、これだけはしなくては。
サガの心の中に悪の種を植え付け、聖域にほころびを作る足掛かりにする。それが俺の復讐。
「サガよ!俺と貴様は双子の兄弟。俺が聖域を憎む様に、貴様も聖域に牙をむく日が来るぞ」
「戯言をぬかすな!」
「どう思うかはお前の自由だ。だが俺には分かる、貴様は聖域に弓を引く!」
「五月蠅い!」
鳩尾への一撃で、俺は意識を手放した。
次に目が覚めた時は岬の牢獄へと幽閉されていた。
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