腐った妄想の吐きだし口。
現在は聖闘士星矢の蠍座のミロのハマっております。
2015/07/16 (Thu)17:07
次の日、ミロは泉にやってこなかった。
「あれだけ叩きのめせば、当たり前か。ま、いいじゃないか。静かになって、本来これが当たり前なのだ。今までが騒がしすぎただけだ。すぐに慣れる」
水面に映った自分に言い聞かせるように、はっきりと言葉に出した。
いつまでも、寂しがっていてはいけない。俺はサガの影。影は誰とも馴染まない。
ミロの姿が見えなくなって、二ヶ月が過ぎた。何となく気まずくて、サガも俺もミロの話題を口にすることはなかった。だからあいつが今、どうなっているか知らない。
全く、めんどくせぇ。
男子専用闘技場まで、修行で使った道具を届けろだと?そんなの下っ端に言えよ!
腹の中で毒を吐きながら、重たい荷物を運ばされている。
いくら黄金聖闘士の兄を持ち、補助要員としてその末席に名を連ねていても、所詮替え玉は替え玉だ。聖衣持ちよりも格下に扱われる。つまり、あの女どもに雑用を押し付けられたら、渋々でも従うしかない。
もういい、ここにぶん投げとこ。
八つ当たりで、荷物を闘技場の入口の一番邪魔になる場所に乱暴に下ろした。
もう、ここに用事はない。帰ろうと、方向転換した時だ。
闘技場の隅に、ミロがいるのが見えた。
最後に見た時よりも、丸くなった。
ミロは、候補生たちから離れた位置で、鍛錬を見学しているようだった。時折、型をまねて拳を突きだしたり、蹴りの真似をしている。
なんだあいつ、元気そうにしてんじゃん。俺がいなくても全然平気っぽい。
なんだか無性に腹が立って、荷物を蹴飛ばしてから素早くその場を後にした。
「なんでここにいるのよ!!」
次の日、いつもの泉にサボりに行くとミロがいた。
前の時と同じように、何の前触れもなくそこにいるのが当たり前な顔して、泉の水を指で弾いて一人遊びしている。
近くで見ると、二ヶ月前との違いは一目瞭然だ。かさついた肌は、すべすべだし、髪の毛も艶が出てきたし、何よりぎょろりと淀んでいた碧い瞳も今は澄んで見える。
流石、教皇のお眼鏡に適っただけのことはある。短時間でここまで回復するなど、奇跡に近い。もっとも、強力な小宇宙を秘めているからこそ、長期間林檎しか食べられなくても、生き延びられたわけだが。
「んーと、かのん、きのう、いたね!」
「は?意味わかんないんですけど?私は、お前がどうしてここにいるか聞いてるの!!」
「ほんとうはね、れんしゅう、でれるようになってから、あいにいきたかったの。でも、きのう、みつかっちゃったから、あいにきた」
えへへと得意げにミロが笑う。
「なんでよ」
「なかなおり、しよ。おれ、ごはん、たべてるもん。もうすぐ、みんなとれんしゅうにも、でるのよ。だから、またなかよし、して!」
あれだけ酷い言葉を投げつけたのに、こいつ、頭が悪いんだ。林檎しか食ってねーから、馬鹿なんだ。そうに、決まってる。
「まったく、仕方ないわね」
憎まれ口を叩きながら、しょっぱい味がしたのは、きっと気のせいだ。
「あれだけ叩きのめせば、当たり前か。ま、いいじゃないか。静かになって、本来これが当たり前なのだ。今までが騒がしすぎただけだ。すぐに慣れる」
水面に映った自分に言い聞かせるように、はっきりと言葉に出した。
いつまでも、寂しがっていてはいけない。俺はサガの影。影は誰とも馴染まない。
ミロの姿が見えなくなって、二ヶ月が過ぎた。何となく気まずくて、サガも俺もミロの話題を口にすることはなかった。だからあいつが今、どうなっているか知らない。
全く、めんどくせぇ。
男子専用闘技場まで、修行で使った道具を届けろだと?そんなの下っ端に言えよ!
腹の中で毒を吐きながら、重たい荷物を運ばされている。
いくら黄金聖闘士の兄を持ち、補助要員としてその末席に名を連ねていても、所詮替え玉は替え玉だ。聖衣持ちよりも格下に扱われる。つまり、あの女どもに雑用を押し付けられたら、渋々でも従うしかない。
もういい、ここにぶん投げとこ。
八つ当たりで、荷物を闘技場の入口の一番邪魔になる場所に乱暴に下ろした。
もう、ここに用事はない。帰ろうと、方向転換した時だ。
闘技場の隅に、ミロがいるのが見えた。
最後に見た時よりも、丸くなった。
ミロは、候補生たちから離れた位置で、鍛錬を見学しているようだった。時折、型をまねて拳を突きだしたり、蹴りの真似をしている。
なんだあいつ、元気そうにしてんじゃん。俺がいなくても全然平気っぽい。
なんだか無性に腹が立って、荷物を蹴飛ばしてから素早くその場を後にした。
「なんでここにいるのよ!!」
次の日、いつもの泉にサボりに行くとミロがいた。
前の時と同じように、何の前触れもなくそこにいるのが当たり前な顔して、泉の水を指で弾いて一人遊びしている。
近くで見ると、二ヶ月前との違いは一目瞭然だ。かさついた肌は、すべすべだし、髪の毛も艶が出てきたし、何よりぎょろりと淀んでいた碧い瞳も今は澄んで見える。
流石、教皇のお眼鏡に適っただけのことはある。短時間でここまで回復するなど、奇跡に近い。もっとも、強力な小宇宙を秘めているからこそ、長期間林檎しか食べられなくても、生き延びられたわけだが。
「んーと、かのん、きのう、いたね!」
「は?意味わかんないんですけど?私は、お前がどうしてここにいるか聞いてるの!!」
「ほんとうはね、れんしゅう、でれるようになってから、あいにいきたかったの。でも、きのう、みつかっちゃったから、あいにきた」
えへへと得意げにミロが笑う。
「なんでよ」
「なかなおり、しよ。おれ、ごはん、たべてるもん。もうすぐ、みんなとれんしゅうにも、でるのよ。だから、またなかよし、して!」
あれだけ酷い言葉を投げつけたのに、こいつ、頭が悪いんだ。林檎しか食ってねーから、馬鹿なんだ。そうに、決まってる。
「まったく、仕方ないわね」
憎まれ口を叩きながら、しょっぱい味がしたのは、きっと気のせいだ。
2015/07/11 (Sat)21:49
6月20日
仕事を早めに切り上げさせてもらい、デパートで菓子折りを購入。
六時前、氷河に案内させ件の家を訪ねた。チャイムを鳴らし、立派な日本家屋から金髪碧眼の外国人が現れた時には、自分がフランス人だという事を忘れて面食らった。
「どちら様?」
「突然、すみません。私はカミュ・ドゥクレと申します。うちの氷河が、大変ご迷惑をかけまして、申し訳ございません」
「すみませんでした」
私と氷河はそろって頭を下げた。
「あぁ、この間の瓜坊六人組ね。あの罠は成人用だったから、さぞかし怖い思いをしただろ」
畑の主はニヤリと人の悪い笑みを浮かべ、氷河の頭を撫でた。
「別に気にしてませんよ。野菜泥棒なんて、この辺の子供ならだれもが通る道でしょ。ただ、お仕置きは必須なんで、彼らには畑の草むしりをみっちりと手伝ってもらいました」
「そう言っていただけると、助かります。これは、お詫びの気持ちです。どうぞ、お納めください」
「あ、これ満月堂の羊カステラだ。大好物です、ありがとう」
”太陽”や”向日葵”に例えられる微笑みと言うのは、まさにあの顔だと思う。内側から喜びが溢れだしているのが、しっかりと感じ取れた。不覚にも、一瞬見とれてしまった。
彼の名前はミロ・ガウラスという名前だそうだ。日希ハーフのアメリカ育ち。25歳、私と同い年。これから、良き近所づきあいが出来ることを願う。
6月29日
職場で子供に泣かれてしまった。大柄で、顔の彫が深く、髪の色も目の色も違う私は、5歳児の目には怪人に映るらしい。子供は異物には敏感だから仕方ないと分かっていても、正直落ち込む。
家に帰ると、食卓に涼しげなガラスの器に山盛りに盛られたポテトサラダが置いてあった。
氷河の話だと、ミロに「選べ、現物か加工品か!?」と聞かれて意味も分からず「加工品」と答えたのだそうだ。
「ミロってば、こんな風に目を吊り上げて鬼のような迫力でね!」と、興奮気味に語った。
ありがたく夕飯のおかずにさせていただいた。。ポテトサラダは、レストランに出しても恥ずかしくないくらい絶品だった。
氷河は一人で「美味しい、美味しい」と半分くらいの量を平らげていた。食欲旺盛なのはいいことだ。
後できちんと礼をせねば。
2015/07/11 (Sat)08:38
サガから目覚めの悪い話を聞いてしまった以上、何か策を講じなければなるまい。
詳しく聞き出した話によると、ミロは両親が蒸発し、親戚に疎まれながら育ったらしい。
ならば、話は簡単だ。ちょっと傷口をえぐってやればいい。本人が望もうが望むまいが、あいつの居場所はここしかないのだから。
林檎を齧りながら、隣のミロを盗み見る。子供とは思えない枯れ枝の様な手に、痩せこけた頬。今から俺は、残酷な話をする。こんな幼い子供を傷つけるやり方は、善人ぶったあいつらには出来まい。使えないと分かれば、あっさりと捨てるくせに。
「ミロってば、林檎半分食べるのに随分と時間がかかるのね。いつまで経っても痩せっぽちだし、どうして?」
「え?」
意味が分からないとばかりに、瞬きをした。大きな碧い瞳に不安の色がくっきりと浮かぶ。仮面越しにその瞳を捕え、ゆっくりとでも恐怖をあおる口調で話を続ける。
「いつも林檎ばかり食べて、お前の親は叱らなかったの?それとも、叱ってくれる親もいない?」
いつもと様子が違う俺に、ミロは顔を歪めた。林檎がぽろりと手から落ちる。だがそれにすら気が付かず、オロオロと視線を彷徨わせた。
「かのん?こわい。やめて」
「ねぇ、今までどんな生活してきたの?ここに来て忘れちゃった?でも大丈夫、すぐ思い出せるよ。だって、役立たずはいらないもの」
「かのん!!」
金切り声をあげて、ミロが俺の服を掴んで揺さぶる。「やめて、やめてよ」って必死で懇願するミロを乱暴に払いのけた。
「思い出してきた?今までの生活、さぞ惨めだったんでしょ?ここに来た時からボロボロだったものね。ご飯、食べない悪い子だから苛められてたの?」
「ちがう、ちがうもん。おれ、わるいこじゃないよ。おじさんも、おばさんも、ごはんたべちゃ、だめって。おれはかぞくじゃないからって…だから、りんご、だれもたべない、すっぱいりんご…」
「おじさんも、おばさんもがっかりするね。漸くいなくなったお荷物が、また戻ってくるんだもの。ご飯も食べられない落ちこぼれじゃしかたないよね、捨てられちゃっても文句は言えないね」
碧い両目から涙が溢れだした。縋り付き、泣きじゃくりながら、「いいこにするから、すてないで」と繰り返す姿は哀れだ。
ー耳鳴りがした。ー
『お願い、ちゃんと仮面被るから!女の子でも我慢するから、いらないって言わないで!!』
頭の中に浮かぶ光景。
まだ幼くて、自分の立場が理解できていなかった頃。サガと同じ格好がいい、女装は嫌だと泣き喚いた俺。その度に侍女は言った。
『我が儘言う子はいりません』
「消えろ、消えてしまえ!!」
忌々しい残像を消したくて、声を張り上げた。だが、消えたのは残像ではなく泣きじゃくっていたミロの声。ミロは怯えた瞳で俺を見つめると、唇を震わせ、全速力で(たぶん、彼の中では)逃げ出した。
「あ!」
しまった。ちょっと苛めて、適当なところで隠し持っていたパンを食わせて、少しずつ食事をとるように促すつもりだったのに。これじゃ、ただ恐怖心を煽っただけだ。
ついでに、自分のトラウマまで掘り起こした。
「バカみてぇ」
※※※※
夕方、自宅にサガが乗り込んできた。
要件も言わず、真っ先に張り手が飛んできた。
「カノン!貴様ミロに何をした!?」
「何って、別に。俺は本当のことを言ったまでだ。飯も食えない落ちこぼれは捨てられるとな」
「お前、よくもそんな台詞が言えたな。あの子がどんなに心を痛めたか分からんのか!?」
「五月蠅い!綺麗ごとはたくさんだ!!俺の言ったことに間違いはあるか!?優しい振りをし、手を差し伸べ、使えないと分かれば切り捨てる。それが聖域のやり方だろう!!現にミロだって、このままの状態でいたら、死ぬのが分かっていて元の場所に捨てるんだろうが!!」
流石のサガも、図星を突かれて言葉を詰まらせた。それだけ、ミロに手を焼いてた証拠だ。
「帰れよ。俺は機嫌が悪いんだ。早く失せろ!」
近くに合った皿を投げつけると、サガは渋々退散していった。
「俺だって、好きで言ったんじゃねぇよ」
ずるずるとその場にしゃがみこむ。目からぽたぽたと涙が出てきた。
全く、柄にもないことをするからこんな目に合う。もう、あのガキと関わるのはよそう。
いや、あれだけ酷いことを言われたら向こうが来ないか。
胸の空洞に冷たいものをねじ込まれた心地がして、暫く泣いた。
詳しく聞き出した話によると、ミロは両親が蒸発し、親戚に疎まれながら育ったらしい。
ならば、話は簡単だ。ちょっと傷口をえぐってやればいい。本人が望もうが望むまいが、あいつの居場所はここしかないのだから。
林檎を齧りながら、隣のミロを盗み見る。子供とは思えない枯れ枝の様な手に、痩せこけた頬。今から俺は、残酷な話をする。こんな幼い子供を傷つけるやり方は、善人ぶったあいつらには出来まい。使えないと分かれば、あっさりと捨てるくせに。
「ミロってば、林檎半分食べるのに随分と時間がかかるのね。いつまで経っても痩せっぽちだし、どうして?」
「え?」
意味が分からないとばかりに、瞬きをした。大きな碧い瞳に不安の色がくっきりと浮かぶ。仮面越しにその瞳を捕え、ゆっくりとでも恐怖をあおる口調で話を続ける。
「いつも林檎ばかり食べて、お前の親は叱らなかったの?それとも、叱ってくれる親もいない?」
いつもと様子が違う俺に、ミロは顔を歪めた。林檎がぽろりと手から落ちる。だがそれにすら気が付かず、オロオロと視線を彷徨わせた。
「かのん?こわい。やめて」
「ねぇ、今までどんな生活してきたの?ここに来て忘れちゃった?でも大丈夫、すぐ思い出せるよ。だって、役立たずはいらないもの」
「かのん!!」
金切り声をあげて、ミロが俺の服を掴んで揺さぶる。「やめて、やめてよ」って必死で懇願するミロを乱暴に払いのけた。
「思い出してきた?今までの生活、さぞ惨めだったんでしょ?ここに来た時からボロボロだったものね。ご飯、食べない悪い子だから苛められてたの?」
「ちがう、ちがうもん。おれ、わるいこじゃないよ。おじさんも、おばさんも、ごはんたべちゃ、だめって。おれはかぞくじゃないからって…だから、りんご、だれもたべない、すっぱいりんご…」
「おじさんも、おばさんもがっかりするね。漸くいなくなったお荷物が、また戻ってくるんだもの。ご飯も食べられない落ちこぼれじゃしかたないよね、捨てられちゃっても文句は言えないね」
碧い両目から涙が溢れだした。縋り付き、泣きじゃくりながら、「いいこにするから、すてないで」と繰り返す姿は哀れだ。
ー耳鳴りがした。ー
『お願い、ちゃんと仮面被るから!女の子でも我慢するから、いらないって言わないで!!』
頭の中に浮かぶ光景。
まだ幼くて、自分の立場が理解できていなかった頃。サガと同じ格好がいい、女装は嫌だと泣き喚いた俺。その度に侍女は言った。
『我が儘言う子はいりません』
「消えろ、消えてしまえ!!」
忌々しい残像を消したくて、声を張り上げた。だが、消えたのは残像ではなく泣きじゃくっていたミロの声。ミロは怯えた瞳で俺を見つめると、唇を震わせ、全速力で(たぶん、彼の中では)逃げ出した。
「あ!」
しまった。ちょっと苛めて、適当なところで隠し持っていたパンを食わせて、少しずつ食事をとるように促すつもりだったのに。これじゃ、ただ恐怖心を煽っただけだ。
ついでに、自分のトラウマまで掘り起こした。
「バカみてぇ」
※※※※
夕方、自宅にサガが乗り込んできた。
要件も言わず、真っ先に張り手が飛んできた。
「カノン!貴様ミロに何をした!?」
「何って、別に。俺は本当のことを言ったまでだ。飯も食えない落ちこぼれは捨てられるとな」
「お前、よくもそんな台詞が言えたな。あの子がどんなに心を痛めたか分からんのか!?」
「五月蠅い!綺麗ごとはたくさんだ!!俺の言ったことに間違いはあるか!?優しい振りをし、手を差し伸べ、使えないと分かれば切り捨てる。それが聖域のやり方だろう!!現にミロだって、このままの状態でいたら、死ぬのが分かっていて元の場所に捨てるんだろうが!!」
流石のサガも、図星を突かれて言葉を詰まらせた。それだけ、ミロに手を焼いてた証拠だ。
「帰れよ。俺は機嫌が悪いんだ。早く失せろ!」
近くに合った皿を投げつけると、サガは渋々退散していった。
「俺だって、好きで言ったんじゃねぇよ」
ずるずるとその場にしゃがみこむ。目からぽたぽたと涙が出てきた。
全く、柄にもないことをするからこんな目に合う。もう、あのガキと関わるのはよそう。
いや、あれだけ酷いことを言われたら向こうが来ないか。
胸の空洞に冷たいものをねじ込まれた心地がして、暫く泣いた。
2015/07/08 (Wed)23:15
「カーット!OKです」
その声に、場の緊張が一気に解けた。
炎が燃え盛る地べたで、互いの手を握り合いながら倒れこんでいた二人は、ほぼ同時にその手を跳ね除けた。
カミュは、不愉快だとばかりに眉根を寄せながら、ズボンのポケットからハンカチを取り出し念入りに手を拭いた。もちろん、ついさっきまでスルトの手を握っていた右手だ。
それを見ていたスルトも、チッと舌打ちをするとカミュに握られていた方の手を、乱暴にズボンに擦りつけた。
「おーい、カミュ、スルト。お疲れさん」
現場の隅で見学をしていたミロが、2人に向かって手を振った。その隣には、出番待ちのシュラもいる。
カミュが主を見つけた犬よろしく、光の速さで駆けていく。顔こそクールなままだが、両手を大きく広げ全力でミロを抱きしめようとしている姿は、はたから見ると随分とちぐはぐだった。
カミュの両腕がミロを捕えようとしたその刹那、彼は絶妙なタイミングでそれを回避した。
「ミロ、なぜ逃げる?」
親友に抱き付く気満々、むしろ押し倒す気すらあったカミュは不満げな声を上げた。
「だってここ熱気がすごいだろ。暑さ慣れしてるスルトや凍気の膜を体にめぐらせてる君と違って、俺は汗かいてるからな。汗臭い体で抱き付かれるのは申し訳ない」
「そんなことはない。むしろその方が、ミロの匂いを「エクスカリバー」」
カミュの台詞を分断するように、シュラが手刀を放つ。じゃれあっていた親友組2人はそれを難なくかわした。
「あー、すまんすまん。ちょっとエクスカリバってしまった」
「ちょっと、気を付けてください。私まで巻き込まれるところだったじゃないですか!!」
流れ刃をわざとギリギリでかわし、スルトが苦情を投げかける。
「スルト、久しぶり!」
「久しぶりって、2ヶ月半前にも会っただろ」
「あの時は、本当に撮影だけでサヨナラだったじゃないか。個人的に話すのは4年ぶりだ」
「ふん、正確には4年と125日ぶりだ」
そっけない返事の割に、最後に会った日にちをしっかり記憶している辺りが恐ろしい。だが、残念ながらそのことにツッコミを入れる者は誰もいなかった。
現在、聖域とアスガルド共同で映画を作成している。
最近、青銅の活躍が目覚ましく、聖闘士の頂点である黄金聖闘士の影が薄くなっていることを憂いたアテナが、夏祭りに合わせて黄金聖闘士を主役に据えた映画を公開することを提案したのだ。娯楽目的、いうなればちょっとしたおふざけであり、当初は仲間内で盛り上がる位を予定した物だったのだが。
どういう訳か、それがアスガルドのヒルダの耳に入り、そこから彼女の側近アンドレアスに伝わり。「では、悪役は我らが引き受けましょう」となぜかノリノリで参戦宣言してきた。
そのアンドレアスの部下に、かつて聖闘士候補生として共に切磋琢磨してきた旧友、スルトがいたのである。
「そうか、そんなに経つか。確か前回あった時は「ミロ、その話題は…」妹の誕生日だったな。シンモラは元気か?」
「あぁ」
スルトの瞳がすっと細められ、瞳が怪しく光ったのをカミュもシュラも見逃さなかった。シュラは掌で目を覆うと「バカめ」と小声で呟き、カミュはこれ見よがしにため息を吐く。
「最近、シンモラが朝バナナダイエットにハマってしまってな。何でも友人が一人でダイエットするのは辛いと寝ぼけたことをぬかして、シンモラを唆したらしい。全く、意志の弱い人間は困る。私のシンモラは痩せる必要性など小指の爪の先の垢ほどもないというのに、なぜそんな危険なことをせねばならないのか!もちろん、私は兄といて言った。『止めなさい、シンモラ。お前は…「ストップ!!」』」
「お前の妹語りは長すぎる。その話2人っきりの時にゆっくりミロに聞かせてやってくれ」
「冗談じゃない。大切な親友をこんな奴と2人っきりになど、ぐふ!」
シュラはスルトの話を遠慮なくぶった切り、脇からぶちぶちと文句を言う後輩の頭にチョップを入れて黙らせた。この男、意外と気が短い。
ミロは「まあまあ」と苦笑を漏らし、スルトは「そちらも相変わらずですね」と皮肉を浮かべる。
「そう言えば今回の映画、カミュは貧乏くじを引いたな。俺にシュラ、スルトと身内と交戦三昧だ」
「私を身内に含めるな。この男と友になった覚えはない」
「スルトは、相変わらず素直じゃないな。カミュと聖闘士候補生時代からの親友じゃないか」
水と油、犬猿の仲のスルトとカミュを誤解しているミロが能天気なことを言い放つと、二人は見事なユニゾンで「「違う!」」と答えた。ミロは内心(2人とも素直じゃないところがそっくりだ)と思った。
「問題はそこではないだろう。俺は未だにこの脚本を認めん。アテナを護る聖闘士が、私情に流され敵に寝返るなど言語道断だ!」
「それについては、私も同感だ。この私が私情でミロを、アテナを裏切るなどありえん。そこは随分抗議したのだがな、実に残念だ」
「そういうな、シュラ。カミュも辛いとは思うが…今回は仕方ないだろう。この脚本家は全力で頑張ったと思うぞ」
アスガルドと共同制作になるにあたり、急遽あちら側からも脚本家を起用したところ、意見が合わず予定がだいぶずれ込み、それに加え各地で邪神が復活するごたごたが起き映画の撮影が滞ってしまったのだ。
本来ならば、カミュとミロの密会のシーンがあり、そこで共闘して神闘士を倒す予定であったが、頓挫してしまった。仕方なく、ミロはグレートルートを破壊して力尽き、カミュは贖罪と友情の為に泣く泣く見方を裏切った悲しみの戦士という事で無理やりまとめた。
ちなみに、脚本が揉めた理由の一つが『密会シーンで大怪我を負いお姫様抱っこされる役をミロとカミュどちらにやらせるか』で、ミロカミュ派とカミュミロ派で激しい対立が起きたからである。もちろん、それは腐女子達脚本担当達の秘密だ。
ついでに、『グレートルートを破壊した際、消耗したアイオリアをシュラが抱きかかえ、そのまま戦闘に入る』という、かなり無茶振りな演出も案として挙がっていたが、リアシュラ派とシュラリア派による(以下同文)。
「カミュさーん、すみませんが氷の間作ってください」
「わかった、今行く」
スタッフから声がかかり、カミュは仕方なしといった体で返事をする。
「ミロ、私が帰ってくるまで絶対にここを動くな。そいつと2人っきりになったりするなよ」
「フン。天下の黄金聖闘士ともあろう者が、随分と余裕のないことで」
「ほらほら、喧嘩しない。カミュ、頑張ってな。ここでみんなで見守ってるから」
「いいから、早く行け。さっさと撮影を終わらせて帰らねば、アフロが五月蠅いんだ」
三者三様の眼差しに見送られ、カミュはその場を後にした。
以上。
私なりに7話を受け入れる努力をしてみました。
きっと、舞台裏はこんな感じ。
撮影の後は、魚介コンビと合流して飲み会。あっという間に眠り姫になっちゃったアフロさんと、大した見せ場がなかったミロをみんなで慰める会が開かれてます。